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Monday, July 2

絓秀実『革命的な、あまりに革命的な 「1968年の革命」史論』(ちくま学芸文庫)を読む。

Tuesday, July 3

FIFAワールドカップの決勝トーナメントで日本はベルギーに敗退。報道によれば、日本代表のキャプテン長谷部誠は試合後のインタビューで「気持ちを整理する時間が必要」と語ったという。ここですかさず、心理状態を整理しなければならない事態に陥ったときに読むべき本として、2011年刊行の自身の著書『心を整える。』(幻冬舎)を宣伝して重版を狙うがめつさこそ、今後の日本代表に求められるものかもしれない。

Wednesday, July 4

『みすず』(みすず書房)と『UP』(東京大学出版会)の7月号を読む。『みすず』では五十嵐太郎と十川幸司の連載がはじまった。『UP』での川添愛による連載「言語学バーリ・ドゥード」がおもしろい。ラッシャー木村の「こんばんは事件」を言語学的に考察した連載初回(4月号)については、須藤靖が同誌6月号でいささか嫉妬気味(ライバル視?)に言及していたが、今回の原稿もまた、どうでもいいような話で字数を埋めているのがなんとも素晴らしい。

本日ご紹介するのは、2017年12月に出版した『自動人形の城』という本である。この本は、今流行りの人工知能とか、言葉とか、まあ、そういうものについて扱っている。……この時点でもう書くのが辛くなってきた。もう少し踏ん張って紹介すると、この本のテーマは「意図」である。こう書いた瞬間に私の脳内のいかりや長介が「今日のテーマは、イト!」と言い、スクールメイツに囲まれたドリフの五人がけだるそうに踊り始める。おなじみ「もしものコーナー」に移る前に、我に返らなくてはならない。

Thursday, July 5

群像新人文学賞当選作で芥川賞候補作の北条裕子「美しい顔」に、盗用疑惑が浮上して話題になっているという。「美しい顔」を読んでいないし、これから読んで盗作であるか否かを確認する気もないのだけれど、その気がないのは、これが小説だからだ。あからさまなのはともかく、小説の文章が剽窃であるかどうかを確定させるのはなかなか難しい。引用における一応のルールの存在する学術論文とはちがって、小説に溶け込んでしまった文章がパクリかどうかなんて、執筆者本人が「パクりました」といわないかぎり断定のしようがない。執筆者の倫理的な問題に帰属する話だ。だから露骨な剽窃でないかぎり、パクリかどうかなんて第三者は判断のしようがないし、自己申告に頼るしかないと思う。あるいは、文献を明示せずに引用文を忍び込ませる文学作品などはいくらでもあることを考えれば、どういうものが剽窃といえるのかは微妙な話でもある。時と場合による、としかいいようがないかもしれない。もっとも、このたびの件で異様だったのは講談社による作者を擁護する声明で、つぎのくだりなどは講談社の編集部は気が狂ったのかと思った。

石井光太氏著『遺体 震災、津波の果てに』との類似点は弊社の調査により発見し、石井氏に事情説明に赴きました。

講談社は参考文献を呈示しなかった不手際だけだとして事態を収束させたいようだが、ふつう、参考文献というのは書いた本人が参考にした文献を列挙するものではないだろうか。ふつう、というか常識的には。しかし「弊社の調査により発見」とある。参考文献が第三者によって「発見」されたのである。なかなかエキサイティングな事態である。死んでいる作家でもないのに、まわりが引用の確認作業をしていると読める。ピンチョンなみの扱いである。
このたびの件について、文学的な価値を盾にして擁護している向きがあるようだが、これは端的に誤っていると思う。いい悪いではなく、戦略として間違っている。群像新人文学賞の選考委員の名前を確認すれば低レベルな作品を選ぶとは思えないので、小説としてはよく書けているのかもしれない。しかし、世間一般にむけて報道されているものに対して、文学的な価値を掲げて対抗するほど愚かな態度はない。ほとんどの人にとっては文学的価値などどうでもよい話なのだから。文学的価値や小説としての水準の高さを喧伝するのは、論点をずらしていると理解されて終わりである。
それはそうと、講談社の声明文を読むともはや盗用問題というより、講談社vs.新潮社のプロレスといった趣で、しかも参考文献として問題となっている筆頭が、よりによってノンフィクションとして妥当か否かで議論を呼んだ石井光太の著作だというのは、これはもう仕組まれたかのようなエンタメの匂いしかしない。

Friday, July 6

かれこれ10年以上にわたって使用してきたプロジェクターから、ランプの交換を促す表示が出るようになって数ヶ月経つ。交換といっても製造元はとっくに生産中止にしている製品なので交換のしようがないのだが、説明書を読むといつレンズが破裂してもおかしくない状態とあるので、買い換えることにした。エプソン製のEH-TW5650を買う。これまで使っていたプロジェクターが古すぎるというのもあるが、購入した製品から照射される鮮明な映像に感心する。

加藤秀俊『社会学 わたしと世間』(中公新書)を読了。「中公新書とのおつきあいは創刊以来ながく、これで新書十三冊目である」というくだりを目にして単純にすごいと思った。

Saturday, July 7

朝、「ゴンチチの世界の快適音楽セレクション」を聴きながら、珈琲を飲みつつ、おさだゆかり『わたしの北欧案内 ストックホルムとヘルシンキ デザインとフィーカと街歩き』(筑摩書房)と菊池亜希子『好きよ、喫茶店』(マガジンハウス)を読む。

『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』(ライナー・ホルツェマー/監督、2016年)を見る。ドリス・ヴァン・ノッテンを追ったドキュメンタリー。たいへん共感をおぼえたのは、たとえばイギリスを旅行するとする、となると時間割をつくる、それも分単位で、そうすれば効率よくたくさんまわれるだろう? とドリス・ヴァン・ノッテンが語るシーン。

夕食、タコとトマトとほうれん草のパスタ、アボカド、赤ワイン。

Sunday, July 8

東京駅八重洲地下街にあるエリックサウスでカレーを食べてから、銀座でギャラリーをめぐる。ポーラミュージアムアネックスで八木夕菜「NOWHERE」、資生堂ギャラリーで佐藤浩一「半開花の庭」、銀座メゾンエルメスでミルチャ・カントル「あなたの存在に対する形容詞」。松屋銀座のマリメッコで鍋つかみを新調する。ライオン銀座七丁目店でビールを一杯飲んで帰る。