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Monday, March 27

大相撲春場所で逆転優勝を果たした稀勢の里が「自分の力以上のものが出た。見えない力が働いた」とコメントしているのだけれど、解釈によっては不穏な憶測を呼びかねない発言だと思うのは勘ぐりがすぎるだろうか。

会社帰りに本屋で『MONOCLE』4月号とシモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』(冨原真弓/訳、岩波文庫)を買う。

Tuesday, March 28

『図書』4月号(岩波書店)が届く。あたらしい連載がふたつはじまって、ひとつは大正期のアナキスト金子文子について書くブレイディみかこの「女たちのテロル」、もうひとつは肝硬変なのに朝から酒を飲んで結果食道癌になった高橋三千綱の「作家がガンになって試みたこと」。『図書』がずいぶんとあらくれた雰囲気になっている。

Wednesday, March 29

新聞の記事に高齢者の7割近くが65歳を超えても働きたいと思っているとあったのだが本当なのかそれは。7割近くの人が天職と呼べるようなやりがいのある就労をしているとは思えないし、7割近くの人が労働をしなければすぐさま経済的困窮に陥る深刻な状況にあるとも考えにくい。つまるところ、7割近くの高齢者は、仕事以外に特段やることがなく、会社以外に居場所がないのだろうと想像される。

Thursday, March 30

昨日29日、イギリスがEU離脱の手続きを正式に開始した。前途多難。

水島治郎『ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か』(中公新書)を読む。ポピュリズムについて手際よく整理した本書の、まとめとなる以下のくだりを読みながら既視感をおぼえる。

しかもその現代のポピュリズムは、「リベラル」や「デモクラシー」といった現代デモクラシーの基本的な価値を承認し、むしろそれを援用して排除の論理を正当化する、という論法をとる。すなわち、政教分離や男女平等、個人の自立といった「リベラル」な価値に基づき、「政教一致を主張するイスラム」「男女平等を認めないイスラム」「個人の自由を認めないイスラム」を批判する。そしてエリート支配への批判、民衆の直接参加といった「デモクラシー」の論理に基づき、国民投票や住民投票に訴え、既成政治の打破を訴えるのである。
そうだとすれば、現代デモクラシーが依拠してきた、「リベラル」かつ「デモクラシー」の論理をもってポピュリズムに対抗することは、実はきわめて困難な作業ではないか。「リベラル」や「デモクラシー」の論理を突きつめれば突きつめるほど、「政教分離」「男女平等」に基づき反イスラムを訴えるポピュリズム、「真のデモクラシー」を訴えて国民投票・住民投票で少数派排除やEU脱退を決しようとするポピュリズムの主張を、正当化することになるからである。(pp.222-223)

何かに似ているなと感じたのは、ナショナリズムの論理である。現代のナショナリズムは多文化主義的な意匠をもって、その理論を正当化する。各国おのおの独自の文化を有するとの認識のもとで、それぞれの文化の価値を承認する。君たちの価値を認めるのだから、われわれの価値も認められて当然であるというロジック。偏狭なナショナリズムを批判する道具であったはずの多文化主義という一見「リベラル」にうつる姿勢は、ナショナリズムを正当化する論法として反転する。

Friday, March 31

年末年始が終わったと思ったら年度末がくるのやめてほしい。

Saturday, April 1

休日出勤。

日経新聞の書評欄で、現実よりも想像力をより生々しく感じるとするルソーの言説は今日のAR(拡張現実)を先取りしていると福嶋亮大が書いているけれど、そんなことはルソーじゃなくても思いつくような話では。

Sunday, April 2

休日出勤。

トランプ大統領が貿易赤字の削減を目指す大統領令を発令したが、途上国でもないアメリカが貿易赤字を政策的にコントロールしようとする意味がわからない。経済学的にはトランプは何かを根本的に勘違いしているとしか思えないのだが、トランプに向かってまともな政策的助言を誰もおこなわないのか不思議である。トランプは意外と「素直」なところもあるので(マティス国防長官の言うことにはあっさり従う)、影響力のある人間が進言すればコロッと意見を変える可能性もあると思うのだが。

『UP』4月号(東京大学出版会)を読む。一冊まるごと「新入生にすすめる本」。