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Monday, March 13

朝の通勤電車で初老の男性がファイナンシャル・タイムズ紙を読んでいて驚く。何が驚くって、いま使っている通勤経路の近辺にファイナンシャル・タイムズ紙を売っているキオスクは存在しないから、おそらくは宅配で購読していると推察され、ファイナンシャル・タイムズ紙の購読は年間10万円以上もするので、新聞にそんな金を注ぎ込む財力に驚くのだった。

オランダ政府がトルコの外相を入国拒否にしたのを契機に、エルドアン大統領がオランダのことを「ナチスの残党」と侮蔑したというニュース。トランプもそうだが、罵倒語としてのナチスが流行っているのか。

夜、調子のおかしくなった無線LANの復旧作業で神経を消耗しつつ、『カント「視霊者の夢」』(金森誠也/訳、講談社学術文庫)を読む。

Tuesday, March 14

去年、筑摩書房から学芸文庫の装いで刊行されたニコラ・ヴェルト『共産主義黒書〈ソ連篇〉』(外川継男/訳)とジャン=ルイ・マルゴラン『共産主義黒書〈アジア篇〉』(高橋武智/訳)を図書館で借りる。どちらもステファヌ・クルトワの論考附き。装丁がなかなかかっこいい。中身はいかに共産主義政府がろくでもないかという話だが。

『香月泰男 シベリア画文集』(山口県立美術館/監修、中国新聞社)を本棚から。異様なほど学芸員の解説が充実している図録。

Wednesday, March 15

六草いちか『いのちの証言 ナチス時代を生き延びたユダヤ人と日本人』(晶文社)を読む。文字は大きく、さらっと読める分量だが、内容は重い。

Thursday, March 16

オランダ下院の総選挙で極右の自由党は躍進せず、現首相のルッテ率いる自由民主国民党が最多議席数を獲得。もっともこれまで以上に他党と組んで連立政権にする必要があるので、はたしてルッテの「勝利」と呼べるかどうかは微妙なところ。ところで、オランダの政治制度にまるで詳しくないのだが、オランダ議会における上院の存在理由がいまいちよくわからない。法案の可否権限はあるが、起草や修正の権限はないらしいので。

井上浩一『生き残った帝国ビザンティン』(講談社学術文庫)を読む。あとがきを読むと、著者が当時勤めていた大阪市立大学のオープンキャンパスに来た高校生が、本書を読んで大阪市立大学で西洋史を勉強したいといってくれたのが嬉しかったと書いてある。しかし残念ながら、その高校生は試験に落ちてしまったらしい。おそらく世界史はできたけれども、ほかの科目が駄目だったのだろう。読んだ本の著者に会いにいって感想を伝える熱心な高校生なんてそうはいないと思うので、ちょっと切ない。大学受験は、すべての科目を適度にバランスよくやり遂げる小賢しい人間に有利なシステムなのだ。

Friday, March 17

エコノミスト誌を読んだら、ポーランド系ユダヤ人を両親にもつドイツ生まれの美術家Gustav Metzgerの訃報が載っている。ぜんぜん知らない人なので日本で紹介されていないのかと思って調べたら、2008年の横浜トリエンナーレに参加していた。でも知らない。

Saturday, March 18

鈴木理策が日経新聞の「交遊抄」で、前田英樹と仲がよく、しばしば飲みにいくという話を書いている。しかしこの強面の相貌の二人が揃って飲食店に入ってきたら、とても堅気の人たちとは思えず、店内に緊張が走るのではないか。写真家とフランス文学者なのに。

「厳選洋食さくらい」でオムライスを食べてから、上野を出発地点とする美術館&ギャラリー行脚をスタートさせる。上野の森美術館で「VOCA展」、SCAI THE BATHHOUSEで宮島達男の展示、山手線で日暮里から浜松町に移動し、Gallery 916で石塚元太良の写真展、東京モノレールに乗って天王洲アイルで下車し、TERRADA Art Complexを遊覧。夕食はそのまま天王洲で。「T.Y.Harbor」にて。

今年の暮れに国立科学博物館で南方熊楠の展覧会が開催されるのを、本日の日経の文化面から知ったが、SCAI THE BATHHOUSEに向かうまでの道のりの途中、若き日の南方熊楠の容貌に似ている知人に遭遇する。

Sunday, March 19

宿酔と胃もたれと花粉症で、当初の予定では出かけるはずだった本日は、必要最低限の買いものと所用以外は自宅ですごす。蒲柳の質である。

きのう訪れたTERRADA Art Complexにある山本現代に、篠原有司男本人とその妻が在廊しており、ドキュメンタリー映画『キューティー&ボクサー』の実際に立ちあう幸運に恵まれたのだが、衝撃的だったのは篠原有司男の敏速な挙動で、あれは85歳を迎えた人間の動きではない。お元気そうで、などというレベルではなく、元気すぎる。

具合が悪いので、回復のためにおとなしく本を読む。歴史の本を二冊。岩村忍『文明の十字路=中央アジアの歴史』(講談社学術文庫)と羽田正『冒険商人シャルダン』(講談社学術文庫)。