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Saturday, January 28

昨夜遅く、Twitterのタイムラインにエマニュエル・リヴァの訃報が流れた。ああ、エマニュエル・リヴァ。三十代の「二十四時間の情事」も、八十代の「愛、アムール」も、品があって知的で、本当に美しい方だったと思う。彼女は『HIROSHIMA 1958』という素晴らしい写真集を生み出し、その写真集が港千尋の名著『愛の小さな歴史』を生むこととなった。

久しぶりに池袋のCamp Expressで1日分の野菜カレー炙りチーズのせを食べたあと、六本木、乃木坂、広尾のギャラリーをめぐる。

・日本のシュルレアリスム写真(タカ・イシイギャラリー) [1]
・戸谷成雄 森 X(シュウゴアーツ) [2]
・ヴァルダ・カイヴァーノ展(小山登美夫ギャラリー) [3]
・リナ・バネルジー(オオタファインアーツ) [4]
・グレゴール・シュナイダー展(ワコウ・ワークス・オブ・アート) [5]
・グループ展(YKG) [6]
・LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS #4(IMA gallery) [7]
・山本悍右展(タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム) [8]
・柴田敏雄展(アートアンリミテッド) [9]
・横須賀功光 光と裸体(エモンフォトギャラリー) [10]

「LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS #4」で今回初めて観た石橋英之の作品は、いつだったか展覧会情報で知って、いつか観たいと思っていた人だとわかった。石橋英之はフランスのリール在住で、リールの各地点で撮影した写真をGoogleストリートビューの画像に貼り付けたりといったことを当初はしていたらしい。それからリールの写真に故郷の日本の写真をコラージュしていったりと、虚実入り乱れた作品が多くなっていったとのこと。わたしはコラージュというものは作品世界それのみで完結し切ってしまうように感じられて残念ながらあまり惹かれないのだけれど(もちろん例外はある)、今回観た写真は、手前に人物が置かれ、後景として湖が広がり、そこには船が浮かび群衆が戯れていて、画面全体のトーンはグレーがかったセピア調でかなり暗いものであり、どう見ても現実の風景とは思えないものの、コラージュ特有のわたしの感じる閉鎖感がまったくないのがとてもよかった。素敵だった。このアーティストの写真はネット上でいくつか見ることができるけど [11]、どれもよい。

食材を買って帰宅。夕食、海鮮丼、油揚げとミョウガの味噌汁、タコワサ、ほうれん草のお浸し、ビール。

Sunday, January 29

平松洋子『食べる私』(文藝春秋)読了。食べることが大好き、お料理も大好き、母の手伝いもよくしてました、という人より、食べることや料理をすることに対して何らかの葛藤がある人、すなわちデーブ・スペクターや樹木希林の話が圧倒的に面白い。

懐石料理やフランス料理のフルコースは食べている時間が長すぎて耐えられない、鍋は気を遣うから苦手、自分の労働量が多すぎるからバイキングも嫌いだと言い放つデーブ・スペクター。平松洋子の「早いってことが、ともかく重要なんですね」の問いに「十分でいい、十分で」と答えるところで思わず爆笑。もともと母親が料理が苦手だったことが影響していると話すものの、だからといって妻に美味しい手料理を求めたりはしない。「だって、ちゃんとしたものをつくると大変すぎるもん。で、片づけるのを手伝わないといけないし、褒めなきゃならない」「やりとりが面倒臭いし、ふたりの時間がもったいない」。すべては「とにかく僕、ほら、味よりも時間を大切にしてる。時間の削減縮小ですよ。何か無駄なことをしているのが自分でちょっと許せない感じ」という思想によるもので、料理や食事の時間がとにかく無駄だという。

わたしはこんなに日々料理をしてたくさんごはんを食べて、食というものに情熱を傾けている一方で、この主張に対して発狂するほど共感する。あんなものはたしかに無駄だ。料理の時間を省けばもっと本も読めるし映画も観られる。しかしわたしには「恋している人と美味しいものを食べる時間」というものを偏愛する個人的な嗜好がある。それゆえに一生懸命料理し、ともに食事をする。恋する人がいなければ、料理などするものか。豆腐をパックのまま食べたり大豆を缶詰から口に流し込んだり、たまごかけごはんばかり食べたり、せいぜいつくってほうれん草のお浸し、蒸しにんじん、牛肉の佃煮くらいだろう。栄養はちゃんと取りたいと思うから、いいものを最低限の手間で食べるということ。

わたしはもともと結婚にも料理にも興味がなく、興味をもつことなんて金輪際ないだろうと考えて生きてきた。しかし、結婚もしてしまったし、ちょっとばかり手の込んだ料理もやるようになってしまった。餃子や焼売やちまき、ビーフストロガノフにラザニアにピクルス、おせち料理だって、できるものならできる限りつくる。でも若い頃はある信念のもとにとにかく料理をしたくなかった。その思いをこの本の中で、樹木希林が1ミリの狂いもなく代弁してくれている。「「樹木さんの場合、これまでずっと料理を避けてきた感じですか」「避けてきました」「面倒ですか」「なくなっちゃうでしょ、すぐ。時間かけて作ってなくなっちゃう、その不毛な感じが」「徒労感があるんですか」「そこから何も生まれてこない感じ。じゃあ何でもいいってわけじゃないから、これが苦労なの。まあ、食べなきゃしょうがないから作るけどね」。

若い頃のわたしはとにかく何かかたちあるものをつくりたくて残したくて仕方なくて、料理なんて消えてなくなってしまうものを一生懸命つくるというのはどうしようもない徒労じゃないか、と思っていたのだ。いまは結婚にも料理にも、それぞれ意味があることがわかった。けれども、そう感じていた以前の気持ちもわすれずにいたい。

サルボ恭子『作りおきオードヴル』(朝日新聞出版)を読んで就寝。ええ、いまは一生懸命料理してますから。

  1. 日本のシュルレアリスム写真 []
  2. 戸谷成雄 森 X []
  3. ヴァルダ・カイヴァーノ展 []
  4. リナ・バネルジー []
  5. グレゴール・シュナイダー展 []
  6. グループ展 []
  7. LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS #4 []
  8. 山本悍右展 []
  9. 柴田敏雄展 []
  10. 横須賀功光 光と裸体 []
  11. 若き写真家が見る歪んだ世界vol.5 石橋英之 []