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Saturday, April 9

鎌倉散歩の一日。まずは北鎌倉の円覚寺を散策。小津安二郎のお墓がわりとあっさり見つかって嬉しかった。墓前にはたくさんの酒瓶と新鮮なお花。手をあわせる。鎌倉へ。

昼、オクシモロンでマトンカレーとビール。小町通りを歩いていたら貼り紙を発見、本日は旧川喜多邸別邸(旧和辻哲郎邸)の公開日だとのことで、早速見学に行く。邸宅は土間までしか入れず、あとはお庭からのぞくのみ。庭の樹々が素晴らしかった! こじんまりした桜の枝ぶりが可愛らしく、風が吹くと花びらがはらはらと舞う。ずうっと眺めていたい風景だった。お向かいや近所の家の人々がとてもとてもうらやましい。

お次は鶴岡八幡宮を散策。ぼたん園(神苑ぼたん庭園)があるというので初めて行ってみたらば、源平池沿いに植えられた桜が緑の葉をつけながら枝を伸ばし、風に散った花弁が池をピンク色に染めて、それはそれは美しい景色が広がっていたのだった。今年は体調もいまひとつだし、気持ちに余裕はないし、パッとしない気分で桜を眺めていたけれど、これで一気に目が覚めた。

14時、川喜多映画記念館で『河内山宗俊』(山中貞雄監督、1936年)を鑑賞。ついに蓮實重彥が言葉の限りを尽くして褒めたたえる降雪シーンを観ることができた。

山中貞雄のここでの雪をめぐる演出は、内外のどんな巨匠たちのそれにも劣らず、文字通り天下一品というほかはない。いまから八十年も前に日本の二十六歳の監督が日本の十五歳の主演女優に向けたキャメラは、こと雪の降り方に関するかぎり、世界一のイメージにおさまっているといっても過言ではない。実際、百二十年余の歴史を通して、映画にはあまたの雪が降っているが、これより繊細な舞い方で画面をいろどる雪は皆無だといってよい。これこそ、世界の映画史でもっとも美しい雪にほかならない。
(蓮實重彦「追悼 原節子 まだ十五歳でしかない彼女の伏し目がちなクローズアップの途方もない美しさについて──山中貞雄監督『河内山宗俊』」『文學界』2016年2月号)

小町通りに戻り、しらす入りのたこ焼きを食べ、鎌倉ビールを買って飲み歩き。小町通りの先っちょにある、干物やしらすや佃煮なんかを売っている魚市場みたいなところで干物やアオサ、鰯の酢漬けを買う。電車の中での夕食用に、駅前の東急ストアでおこわと焼き鳥とビールを買って、帰京。