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Monday, July 1

東京大学出版会から届く『UP』の封をあけたら、東京国際ブックフェアの招待券が三枚も入っている。そんな枚数いらない。友人知人をお誘い合わせのうえでご来場をという趣旨かも知れないが、『UP』掲載の山口晃の漫画を毎回楽しみにしている世界の片隅でひっそり暮らしているような人間に、そのような社交的な態度を求めるのはまちがっていると思う。そもそも東京国際ブックフェアに出掛ける予定がない。

東京大学出版会・白水社・みすず書房のPR紙「パブリッシャーズ・レビュー」に、吉見俊哉による『ミシンと日本近代 消費者の創出』(アンドルー・ゴードン/著、大島かおり/訳、みすず書房)の書評が載ってるのだが、きわめて簡潔かつ鮮やかに主題と論点を整理していて、もう『ミシンと日本近代』は読まなくてもいいんじゃないかと思えてくる様相を呈していた。よく書けすぎた書評も困りものだ。

Tuesday, July 2

『一冊の本』(朝日新聞出版)を読む。橋本治が連載で毎度自身の体調がよくない話をしている。出だしから「私は相変わらず病人なんですが」ではじまる。

夕食は諸事情あって自炊に至らず、一年にいちどくらい食べたくなるケンタッキーを買ってくる。

Wednesday, July 3

ここ最近パスタ料理をつくるとき参考にしているのは『イタリア料理の本』(米沢亜衣/著、アノニマ・スタジオ)。著者の現在は、結婚して姓が変わり熊本に越していると思うが、これはイタリアに身を置いていたあいだに得たレシピが折り重なる2007年に上梓された本。見た目ではない、味なのだ。とは、本の帯にある惹句。素材の味を活かすという些か手垢のついた表現をつかうよりほかない気分にさせる、シンプルで豪快な料理写真の数々がめくるめくならぶ光景は圧巻で、眺めているだけでも愉しい。つくったのは、にんにく、オイル、唐辛子のスパゲッティー。Spaghetti aglio, olio peperoncino。イタリアはイエージの坂道食堂における定番料理だそう。

にんにくは、皮ごとつぶす。
赤唐辛子は、種ごと粗く刻む。
小さなフライパンにオリーブ油を入れ、にんにくを入れて弱火で熱する。
にんにくがほんのり色づいたら赤唐辛子を加え、火を止める。
スパゲッティーをほんの少しだけかためにゆでてざるに上げ、ざっと水気を切る。
器に盛り、熱くした唐辛子のオイルをかけ、イタリアンパセリと葉にんにくの粗みじん切りを散らす。
皿の中で自分であえて食べる。

シンプルで、豪快。

Thursday, July 4

『図書』(岩波書店)と『装苑』(文化出版局)を読了。文化学園服飾博物館で「『装苑』と「装苑賞」その歩み展」が催されるというので、これは楽しみ。前回の反省を踏まえ、間違っても日曜日に行かないように気をつけたい。休館だから。

Friday, July 5

体調が芳しくないので午前中に病院に行く。クラリシッド錠200mg、ムコダイン錠500mg、トランサミン錠500mg、アクディームカプセル90mg、アズノールうがい液4%を処方される。

体調が悪くても活字は追う。最近はなんだか出版社のPR誌ばかりを読んでいる人になっているきらいがあるけれど、本日は『みすず』(みすず書房)を消化。すべての掲載原稿を読み終えるとどっと疲れるこの冊子が定価315円であることにあらためておののきながら佐々木幹郎の連載に目をとおしたら、十代末から二十代初めの日記や手紙の下書きが出てきたときのことについて、つぎのように書いている。

破棄してやろう、と思った瞬間、大岡昇平のことを思い浮かべた。かつて九年間かけて中原中也の第四次全集である『新編中原中也全集』を編集していたとき、中原の友人の大岡昇平の書簡類がまったく残されていないことに気がついた。小林秀雄宛の中原書簡や小林自身の書簡は残されているのに、大岡宛の中原書簡や大岡自身の書簡は、一通も残されていない。現在、神奈川近代文学館に大岡昇平の遺品はすべて収蔵されているのだが、そこに書簡と日記類はない。大岡夫人に聞くと、大岡さんは友人たちの間を回って、彼が青春時代に出した書簡を返してもらい、しばしば自宅の庭で焼いていたという。
(中略)
大岡さんが中原の日記や書簡類を集めながら、自分のものは破棄したということを知ったとき、全集編集人としては、何と身勝手な人だろうと思ったのだが、いざわたし自身のことになると、大岡さんの気持ちがよくわかる。作品さえ残っていれば、他のものはどうでもよいと強く思う。わたしも破棄した。

このくだりを読んで、なんというか、太宰治ってすごいよな、と思った。

Saturday, July 6

体調が芳しくないので、じっとして本を読む。『表参道のヤッコさん』(高橋靖子/著、河出文庫)。

夕方、渋谷に移動。渋谷古書センターとフライング・ブックスに立ち寄る。渋谷古書センターは一般的な古本屋風情だが、乱舞するエロ本の棚の上に内田百閒全集とかが置いてあっていつも気になる。クラブクアトロで「吾妻光良&THE SWINGING BOPPERS × Bloodest Saxophone + 伊東ミキオ」。吾妻さんはギターの練習を朝やるらしい。会社行きたくねーと言いながらアンプにケーブルを差し込むとのこと。会社行きたくねーのアクションを真似るためだけにギターアンプの購入を検討したい。

Sunday, July 7

雨。夕方あたりは沛然たる豪雨に。窓の外の天気の移ろいを気にかけながら、スパイラルで購入した《crystal cage》叢書の三冊を読み耽る。『葉書でドナルド・エヴァンズに』(平出隆/著)、『バスク七色』(港千尋/著)、『時の光』(河野道代/著)。