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Friday, January 1

元旦。初日の出の時刻にマンションの屋上に向かうも、地平線は建造物で遮られて日輪の輪郭を見定められるわけもなく、周囲がなんとなく明るくなったというぼんやりとした認識で終わる。海か山か六本木ヒルズ展望台に行かないと日の出は拝めないのかもしれない。近所のコンビニで日本経済新聞を買って、iPadでエコノミスト誌が更新されているのを確認。正月から日経新聞とエコノミスト誌を読むなんて世界経済の動向を注視する仕事熱心なビジネスマンのような振る舞いだが、わたしは働きたくない。

今年の抱負は特にないが、昨年末から活発化させたインスタ女子としての活動を本年も継続してゆく所存である。朝昼晩の食事と行動記録の蓄積が、いつか狂気じみていくのを目指したい。
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おせち、雑煮、熱燗という正月らしい朝食からの映画鑑賞。正月映画としてツタヤで借りてきたのは、マーク・サンドリッチ監督『気まま時代』(1938年)。フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの素晴らしい踊りと、御都合主義の見本のようなラストシーン。

元日の読書として澁澤龍彦『フローラ逍遥』(平凡社)を読むようにして今年で三年目。さすがに食傷気味なので、来年はべつの本にしたい。『フローラ逍遥』を読む合間、日経新聞の文化欄に目をとおすと、漱石没後100年を特集した内容に堀江敏幸と水村美苗の対談が掲載されている。漱石の特集で『続 明暗』を書いた水村美苗が登場するのに違和はないが、相手が堀江敏幸である理由は何だろう。2013年1月号の『ku:nel』に、1時間以上を費やして1ページ読む演習を大学でおこなっている話が載っていて、そこでのテキストが『こころ』なのだが、それ以外にほかの場所で漱石について書いていたりするのだろうか。で、漱石でも読もうと本棚へ。昨年末、三四郎池を散歩した時に東大傍の古本屋で買った『三四郎』『それから』『行人』が積まれたままだが、手をのばしたのは『漱石文明論集』(三好行雄/編、岩波文庫)。

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサートをラジオで聴きながら夕食の支度をする。指揮はマリス・ヤンソンス。ニューイヤーコンサートはネットラジオでは放送されないので、押し入れにしまい込んであったラジオを出してきてアンテナを調整。うっすらと雑音が入る。

朝、おせち、雑煮、熱燗。
昼、雑煮、熱燗。
夜、ジャガイモとサーモンのオムレツ、オニオンとしめじのスープ、アスピックテリーヌ、スモークサーモンとケッパー、ベビーリーフのサラダ、オリーブ、バゲット、スパークリングワイン。

Saturday, January 2

朝目がさめると気持ちが悪い。ウィルス性の疾患でなければ二日酔いの症状と思われ、コンビニでソルマックゴールドを買って飲むも、あまり効果なし。しばらく寝込み、指定医薬部外品なんてダメだ! とドラックストアで第2類医薬品のソルマックEX2を買う。効果あり。

寝込みながら『漱石文明論集』をちびちびと読む。漱石の講演はいつも、前口上として、話の内容があんまり面白くないかもしれないがご勘弁というエクスキューズではじまる。言い訳がましい漱石。高名な講演記録「私の個人主義」のなかで漱石が唱える「自己本位」のくだりを読んで、漱石が「自己本位」を主張できたのは彼の専攻が英文学であったことも大きく、学問の体系が確立していたフランス文学であったらそうはいかなかっただろうと柄谷行人が書いていたのを思い出した [1]。日本のフランス文学者たちはどれほど本人が反体制的な人物だったとしても、フランスの動向にたいしては従順であったと。

夜、お粥、おせちの残り、緑茶。

Sunday, January 3

本日の日本経済新聞に前田裕之が聞き手の岩井克人へのインタビューという『経済学の宇宙』のスピンオフみたいな記事が載っているが、『経済学の宇宙』に一切言及がないのは意図的だろうか。岩井克人のプロフィール欄にすらない。宣伝したほうがよいのでは。肝心のインタビューだが、「内外で企業の不祥事が目立ちます」という問いかけに対して、岩井克人はつぎのように答えているのが印象ぶかい。

株主主権が強い英米に対し日本とドイツは組織を重視する資本主義である。東芝が不正会計、フォルクスワーゲン(VW)が排ガス不正を起こし、組織資本主義の欠陥といわれる。
その解決は社外取締役を入れ英米的なガバナンスを強化することではない。東芝は英米的な委員会設置会社にいち早く移行した会社である。しかも米国では社外取締役の導入が、業績の向上にも経営者の高額報酬の歯止めにもならないという研究結果も多い。
経営者が内面化すべき忠実義務を社外取締役の監視に置き換えることで、一方では経営者の自己利益の追求を促し、他方では内部統制の存在を盾に忠実義務違反に対する裁判所の介入を防ぐ二重の役割を果たしているという。
社外取締役の義務化といった外形的な統制制度を整備しても限界がある。会社のガバナンスは究極的に、経営者、さらには従業員の倫理性によって支えられているからである。

元旦に水村美苗が、三日に岩井克人が登場した日経新聞。正月の新聞にどーんと顔写真の出る夫婦。

本日の読書は石川美子『ロラン・バルト 言語を愛し恐れつづけた批評家』(中公新書)。本日の映画はテイト・テイラー監督『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』(2014年)。あと、朝昼晩の食事をしつつ断続的にフレデリック・ワイズマン『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』(2014年)を見た。

朝、スクランブルエッグ、かぶの葉とベーコンの炒めもの、オニオンスープ、ヨーグルト、ブルーベリージャム、珈琲。
昼、おにぎり、蓮根の煮物、かまぼこ、黒豆、かぶの葉と油揚げの味噌汁、ほうじ茶。
夜、かぶとベーコンのアンチョビパスタ、赤ワイン。

  1. 福田和也『奇妙な廃墟 フランスにおける反近代主義の系譜とコラボラトゥール』(ちくま学芸文庫)の解説で。 []