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Thursday, November 3

先週末から今週にかけて読んだ本、『反建築:大規模開発と建築家』(フランコ・ラ・チェクラ、石橋典子訳、鹿島出版会)、『人質の朗読会』(小川洋子、中央公論新社)。

海辺でピクニックをしたい願望が高まり鎌倉の海をめざす。行き帰りの電車では『ジャック・ルーボーの極私的東京案内』(ジャック・ルーボー、田中淳一訳、水声社)を。

考えてみれば私たちの日常のおしゃべりもカッコと挿入に満ちているではないか。要は直線的な読み筋にこだわらなければいいのである。散文の語りは線的なものではなく、樹木の枝分かれ、植物の繁茂にたとえられることをルーボーはしばしば力説している。地の文(語りの文体)が思い出やイメージを呼び寄せると、いわばカッコ入りの第二の語りがひらかれる。それがまた別の記憶や注釈を呼びだせば、カッコのなかのカッコ、語りの第三の層に達する。そしてしかるべき順序を踏んで最初の地の文に戻るのだが、まれには脱線したまま戻れずに、開いたままのカッコが残ることもあるかもしれない 。

きょうは朝方は曇っていたしそろそろテラス席も寒いし、ということでスターバックスコーヒー鎌倉御成町店での朝食はなしと決めていたが、出発が遅れたため中途半端な時間になってしまい、結局コーヒーを飲みに立ち寄る。スタバではクリスマスが始まっている。てくてく歩いて海辺に着いてみれば、そこではほどよい数の人々が波打ち際を散歩したり敷物をしいて寛いでいたりと、いい感じ。家から持参したピクルスとりんご、スーパーで買った赤ワイン、唐揚げ、サラダ、LONG TRACK FOODSで買ったピクルス、スコーン、チョコレートブラウニーを広げて海を眺めながらピクニックを楽しんだが、さらに望むのであれば、海辺でのピクニックならばぜひとも男性はタキシードにシルクハット、女性はフリルのたくさんついたロングドレスに貴婦人が持つような傘をさして開催したい。そういう本気すぎるコスプレをしたい。

鶴岡八幡宮に移動し、神奈川県立近代美術館鎌倉館にて「シャルロット・ペリアンと日本」。たとえば昨年、パナソニック電工汐留ミュージアムで開かれた「バウハウス・テイスト—バウハウス・キッチン」、一昨年同ミュージアムで開かれた「建築家 坂倉準三展 <モダニズムを住む>」などでシャルロット・ペリアンの名前を目にするたびにいつかまとめて作品を観る機会が訪れることを期待していたので嬉しい。作品のほか家具やインテリアに関する図面、本人自身が撮影した写真なども展示され、見応えがある。

数日前から口内炎が痛みだし、自分史上最高に酷い痛みを伴うようになってしまった。ピクニックのときはテンションが上がっていたからそれほどではなかったものの、帰り道ではあまりの痛さにだんだんしゃべることができなくなっていった。そして帰宅して夕飯にカレーを食べた。痛い。わたしはカレーならばいつでもどんなときでも食べられる、という日頃の自説を証明してみせたわけだが、インターネットで検索してみると「私は今口内炎が酷いのですがカレーを食べています。痛いです」と書いているブログがあちらこちらに散見されて、こうしてわたしもその現象に加担することになった。

Saturday, November 5

口内炎がいよいよ酷く、昨日はせっかく用意した朝食が食べられず、コーヒー一杯でダウン。液体を飲み込むのも辛い状態で、わたしは身体は脆いが口内炎はかかっても一晩寝たら治るというどちらかというと得意分野なほうで薬を塗ったりすることはしたことがないのだけれど今回ばかりは耐え切れずに薬を塗って就寝した今朝は痛みが半減していた。

午前中に雑用を済ませて午後はユーロスペースにてフレデリック・ワイズマン『セントラル・パーク』(1989年、アメリカ)。電車の行き帰りに『一冊の本』(朝日新聞出版)。

Sunday, November 6

目が覚めた瞬間、昨日観た『セントラル・パーク』のいくつかの場面が瞼の裏に蘇る。夏に二子玉の花火を観ながら河川敷を延々歩いた翌朝も、目を覚ました瞬間、草の情景が浮かんできた。いずれも強烈な体験だったのだ。

朝から雨。口内炎は快方に向かいつつある。朝食の後、なぜか地元の図書館に大量入荷していたため大量に借りてきた未知谷の「チェーホフ・コレクション」のうちまずは『モスクワのトルゥブナヤ広場にて』を読んでから常備菜を数品つくる。久しぶりにポテトサラダをつくった。

きょうは一日遠出せず。夜、フランソワ・トリュフォー『恋のエチュード』(1971年、フランス)を観てあまりに悲しい物語に暗澹たる心持ちになってしまった。今週は月曜に成瀬巳喜男『秋立ちぬ』(1960年、日本)、金曜にフランソワ・トリュフォー 『アデルの恋の物語』(1975年、フランス)、土曜にワイズマンの『セントラル・パーク』を観て、まあ『セントラル・パーク』は別としても、どれも救いようのないお話で胸が痛む。とはいえわたしは『アデルの恋の物語』は未見だと思っていたのだけど昔、劇場で観ていたことをアデルが書店で紙を分けてもらったあと舗道で倒れるというシーンで唐突に思い出したという体たらくで、まあ、胸が痛むといっても話半分に聞いておきましょうといわれても仕方のないレベルなのかもしれない。

今週を漢字一文字で表すとしたら「痛」。健康な一週間を願っていたのだけど。