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Saturday, November 17

ドリス・ヴァン・ノッテンを追ったドキュメンタリー映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』(ライナー・ホルツェマー/監督、2016年)のなかで、効率的に目的地をまわるために旅行の計画は分刻みでおこなうのだと熱く語るファッションデザイナーの姿が映しだされていたが、その発言にたいへん共感をおぼえるのはわたしの旅の工程表もまた、精緻につくり込んだものであるからだ。移動することそれ自体を目的とするようなバックパッカーとはちがうし、あるいはリゾート地でのんびり休暇を過ごすのともちがっている、訪れる目的が明確に定まった旅だ。目的が明晰なのだから、一切の時間を無駄にしない旅程になるのは必然的である。緻密な工程表をつくる。現地で道に迷って時間をロスするのも嫌なので、道順も丹念かつ正確に調べる。去年のポーランドの旅もそうだったが、道順を記憶してほとんど地図を見ることなく動き回るので、交通網の駆使と歩行の姿だけを辿ればまるで在住者のようなふるまいである。インチキ在住者。先日『& Premium』(マガジンハウス)のムックでパリを特集したものが発売されたが、サブタイトルには「パリの街を、暮らすように旅する。」とあった。意味するところがだいぶちがっている気もするが、こちらも「暮らすように旅する」のを目指しているといえなくもない。少なくとも移動にかんしてだけは。

というわけで初冬のロンドンへ。羽田空港からヒースロー空港までANA国際線で移動。遅延することなく、パイロットもアルコールに溺れることなく、無事現地に到着する。ヒースロー空港の入国審査は厳しいのでとても時間がかかるとの情報をもとに、空港からロンドン市内まで向かうコーチ(長距離バス)のチケットは、飛行機の着陸予定時刻から3時間あまり先のものをインターネットで事前購入しておいたのだが、この時期のロンドンはオフシーズンなのか、わりとあっさりコーチの発着口までたどり着いてしまう。日が暮れて肌寒い待合室で待つのは嫌なので、窓口で早い便に変更してもらう。コーチに乗ってヴィクトリア駅まで1時間弱かけて移動する。窓から見えるロンドン中心部の景色はクリスマスモード。

ホテル着。Park Plaza Victoria Londonに泊まる。順調なロンドンまでの工程だったが、部屋に入ると別の人物宛の置き手紙とウェルカムケーキがおいてある。担当者が部屋をまちがえてセッティングした模様。しょうがないのでフロントに戻ってこれはわれわれ宛の手紙じゃないとてきとうな英語で述べて理解してもらう。重い軽いを問わず旅にトラブルはつきものだが、あまり前例のなさそうなよくわからないトラブルである。部屋にもどると今度はカーテンが閉まらなくて難渋する。どうやっても閉まらなくて諦めかけたところ、ベットサイドにボタンがあって自動で開閉する仕組みだとわかる。えらくハイテクなホテルだった。