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Monday, October 12

旧古河庭園の薔薇を見に行く。まだ咲きはじめの枝が多かったが、好天の影響だろうか来園の人出は結構な数。庭園に向かう途中、百塔珈琲でチーズケーキとコーヒーを注文し、現代写真の紹介を主とするイギリスのカルチャー雑誌『Aesthetica』を読み終えた。

夜、玉ねぎとベーコンと万能ねぎの焼きそば、ビール。

本棚の整理がほぼ完成の域に達するも、岩波文庫の並びに添えるため花屋で買ったアイビーの鉢植えが、あまりにボリュームがありすぎて配置に難儀する。

Tuesday, October 13

夜、白米、大根とわかめ味噌汁、豚肉のオイスターソース焼き、小松菜の胡椒炒め、人参サラダ、トマト、ビール。

松江泰治の写真集を二冊本棚から抜き取る。『JP-01 SPK』(赤々舎)と『jp 0205』(青幻舎)。前者の写真集では池澤夏樹が短文を寄せているのだが、松江泰治の写真に添える文章の書き手として、池澤夏樹という存在はあまり適任とは思えず。一方、後者は清水穣が書いている。清水穣の書くものは、もっと平易に書けるものを故意に晦渋にしている印象であまり得意ではないけれど、松江泰治を語るのには適任かと。

写真集に併走するテキストは文庫本の解説とは性格を異にするので、

ぼくには普通の読者より少しだけ有利な点がある。札幌に住んでいるから見覚えのある光景が少なくないのだ。

とか

ヘリからの撮影はおもしろい。ぼくはハワイでやった時は地上の目標ではなく航行中の船を追ってのことだったから、ぎらぎら光る逆光の海上で相手を見つけるのに苦労した。

とか、じぶんの話をはじめてしまう池澤夏樹のような人に書かせるのはちょっと違うのではないかなあと思う。

Wednesday, October 14

夜、ケンタッキーフライドチキン、サニーレタス、人参と玉ねぎのサラダ、赤ワイン。

ダレン・アーモンドの写真集『The Civil Dawns』(torch press)を眺める。ジヴェルニーの庭園、比叡山。巻末に堀江敏幸が寄稿している。堀江敏幸の文章の何を言っているのかわからない事態が加速する近年、このダレン・アーモンドについて書いたものは、出色の何を言っているのかわからない事態かと思う。

移ろいゆく時間と色彩を微分しながら塗り重ね、モネが丹精込めて作りあげたジヴェルニーの庭に生まれつつある光を強めることも弱めることもなく、ダレン・アーモンドは自身の名の示す通り、世界を甘やかな巴旦杏の匂いで包み込む。
ただし嗅覚を刺激するのではない。彼が差し出すのは、匂いを感じさせる特殊な光である。夜明けの数刻のために気の遠くなるほどの歳月を費やして精製された、匂いとしての光。花々はつい先刻まで自分たちを沈めていた闇の名残をまだ捨てきれずにいる。闇とおなじように光もまた満遍なく広がるものだという事実を、花弁で、葉脈で、維管束で理解しながら、まだ認めきれずにとどまっている。
これが恥じらいだったら、どんなに安堵することだろう。恥じらいが世界を受け入れたしるしであるとに対し、とまどいは連続するふたつの時空のあいだに立って、脇をすり抜けていくなかを見送ることである。どれほど近寄っても、花々は、木々は、その背後にあるものを隠さない。人の姿はどこにもないのに、これらの写真のなかでは風が頬を撫で、朝露が指先を濡らしている。

いや、まあ、わからないことはないけれども、こういう風に書く必然性を見出せない。

Thursday, October 15

本棚から『William Eggleston’s Guide』(The Museum of Modern Art)を抜きとる。

Friday, October 16

マグナム所属の写真家が有名ファッションブランドを身にまとう少女たちを撮ったカタログ風の写真集、Lise Sarfati『Fashion Magazine』(Magnum Photos Inc)を読む。

Saturday, October 17

雨降りの土曜日。倉橋由美子の本を二冊持参。『毒薬としての文学 倉橋由美子エッセイ選』(講談社文芸文庫)と『偏愛文学館』(講談社文庫)。

朝一番で上野のモネ展に行くと開場30分前にもかかわらず大変な行列で、とても落ち着いて絵画作品を見る環境ではない人出に辟易し、チケットだけ買って夜出直すことにする。傘をさしながら旧岩崎邸庭園まで歩いて、国立近現代建築資料館に向かう。「ル・コルビュジエ×日本 国立西洋美術館を建てた3人の弟子を中心に」を見る。丁寧な展示で、勉強になる。なにより人がほとんどいないのが素晴らしい。充実の展覧会カタログを無料でくれるというのも素晴らしい。

過門香で四川担々麺、餃子、ビールの昼食ののち、上野の森美術館で「ヤン・シーホン展 永遠の現在」を鑑賞。こちらも無料。そして空いている。いったん家に戻って、ヤン・シーホンの絵画を見ていたらなんとなくザオ・ウーキーのことが思い出され、ブリヂストン美術館での展覧会カタログを見返す。

お昼に食べすぎて胃袋が満杯なので夕食不要のまま、東京都美術館の「モネ展 「印象、日の出」から「睡蓮」まで」に参戦。混んではいるけれど、朝よりはましな人の数。《印象、日の出》は順番に並んで立ち止まらないよう係員が注意を促しながらの鑑賞という、アイドルのサイン会かこれは。

Sunday, October 18

NADiff Galleryで「丹羽良徳 解釈による犯行声明」、MEMで「水田寛 やわらかいしかく」、G/P Galleryで「ポール・コイカー Nude Animal Cigar」、代官山ヒルサイドテラスで「Fumihiko Maki, Maki and Associates 2015」。夜、IVY PLACEで夕食。