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Saturday, October 10

今週は私事により多忙で、疲労が蓄積する。多忙そして疲労、を順序をひっくり返してアンパサンドで結ぶと「疲労&多忙」となり、これはどことなく「ヒロシ&キーボー」を髣髴とさせる音の響きをかもしだすのだが、それはそうと、わたしはとにかく疲れた。肌も荒れた。忙しいのと疲れたのとで本が読めず、かわりに本棚の整理をするという読書以上に疲れそうな作業に没頭する。本を読むより本を移動させるほうが好きなのかもしれない。今後、趣味の欄に何かを記さなければならない事態に遭遇したら、「読書」ではなく「本の移動」と書きたい。

午前中、目白にある切手の博物館で「第3回ヨーロッパ切手展 バルト三国再独立25周年」を見る。ものすごくプロっぽい雰囲気の展示に来てしまった。切手の世界についてはまったくの無知であるが、こちらの浅薄な知識の範疇を超える深遠な世界が展開されているだろうことはある程度想像がつき、そして予想どおり、バルト三国の歴史的な解説や杉原千畝の来歴であればかろうじて関心が向かうものの、切手をめぐる説明になるとまったく理解が届かず。

辻邦生と水村美苗の往復書簡『手紙、栞を添えて』(朝日新聞社)を再読する。新聞連載時に読んでいたのを数に入れれば、再々読か。単行本化にあたり水村美苗によって加筆された「最後の手紙」の冒頭に、

拝啓 辻邦生様
明方の五時です。
トスカーナの丘の上に建つこの古い僧院はまだ闇の中に沈んでいます。僧院の中庭をめぐる回廊には、夜というものがもたらす静けさが垂れこめている。悠久の時を思わせる深い静けさです。でも、空を仰げば、ゆうべ息をのむほど近くに輝いていた満天の星はもう見えない。すでにぼんやりと夜が明けかけているのです。そのぼんやりと明けかけた空に、鐘楼が、夢の中の幻のように黒くそびえています。

とあって、なんでそんな場所にいるの? 長期の旅行? 浮世離れした優雅な感じは何事? と初読時に不思議に思ったのだが、先日読んだ岩井克人の自伝『経済学の宇宙』(日本経済新聞出版社)で、彼がシエナ大学から客員研究員として招聘された話があって、疑問が氷解した。

夜、ベーコンと赤パプリカと玉ねぎと水菜のパスタ、サニーレタスとコーンのサラダ、赤ワイン。

Sunday, October 11

・雨の降る中、鎌倉に向かう。
・道中の読書は山田稔『天野さんの傘』(編集工房ノア)。今は亡き人びとへの追悼文集のような体裁で、情愛が過多にはならず飄々とした筆致でつむがれる思い出話の数々が、読んでいて心地よい。
・都内から横須賀線に揺られ、鎌倉に到着したのは午前10時前。雨あがる。
・お昼ごはんとして予定しているOXYMORONが11時からなので、それまでの時間をつぶそうとイワタコーヒーに向うも行列、御成町のスタバに向かうも満席。雨が降っても鎌倉は混んでいる。行くあてもなく小町通りを目指して歩くとcafe vivement dimancheが空いていた。
・カプチーノを飲みつつ、『みすず』10月号(みすず書房)を読む。
・開店時間前にOXYMORONに到着すると、すでに長蛇の列。予約済みなので心配はないが、いつの間にやらものすごい人気店になってしまった。鎌倉に住んでた頃、ふらっと訪れてカレーを食べていた日が懐かしい。もうふらっと寄れる店ではなくなっている。チキンカリー、紫キャベツのコールスロー、ラッシーを注文。おいしく食べるも、調子に乗って大盛りにしたら食後苦しい。
・川喜多映画記念館で「監督小津安二郎と俳優笠智衆」の展示を見学。鎌倉市がつくった笠智衆の晩年のインタビュー映像に見入る。
・ふたたび御成町のスタバに乗り込み、無事、庭をのぞむテラス席を確保。本日は寒いので、温かい飲み物を注文。フルーツクラッシュ&ティー。平出隆『葉書でドナルド・エヴァンズに I』(Crystal Cage)を読む。
・北欧雑貨の店krone、馬詰佳香と岡尾美代子の店LONG TRACK FOODSに寄り道。
・和田塚駅近くの古民家で開催中の「かまくらブックフェスタ」に参戦。
・かまくらブックフェスタの会場でSさんとGさんに会う。お二人に会うのでサインでも貰おうと思って……と『ku:nel』2004年9月1日号(マガジンハウス)を鞄から取り出すというほとんど出オチのようなネタを披露する。とりあえず笑ってもらえたので、わたしの本日の仕事はこれで終わりだ。
・かまくらブックフェスタではアンドレイ・タルコフスキー『ホフマニアーナ』(前田和泉/訳、エクリ)と澤直哉『花を釘となす人 菊地信義に』(via wwalnuts 叢書)を購入。
・鎌倉駅までの道すがら、公文堂書店に立ち寄る。
・時間が余ったので鶴岡八幡宮まで歩くと結婚式に遭遇。松明の薄明かりに照らされた夜の結婚式は悪くない光景だった。
・夜、Osteria Comacinaで夕食。美味しいイタリアンを食べて、赤ワインを一本空ける。