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Thursday, June 4

『ブルージャスミン』(ウディ・アレン監督、2013年)を観る。自虐的かつ自己愛にあふれた相変わらずのウディ・アレン節がたまらない。主演のケイト・ブランシェットはこの作品でアカデミーをはじめ数え切れないくらいの主演女優賞をとったらしく、圧倒的な演技なのだが、自分のことをペラペラしゃべるところや指をひろげた両手をこめかみあたりにあげて斜め下に目線を落としながらわーってパニック状態でまくしたてる仕草はウディ・アレン本人が憑依したかのようで、わたしはとにかくウディ・アレンが好きなのでなんだかもうすっかり楽しくなってしまった。ちびっ子2人相手にカフェレストランでとうとうと語る、というよりくだを巻くジャスミンが、滑稽で、奇妙な格好良さもあったりして、あのシーンは良かった。それにしてもカメラがまわり、スタッフに囲まれたロケセットの中で、あれだけ涙まみれ汗まみれのスッピンを晒しながら髪の毛を振り乱して演技をしてしまうという、役者とは、もうなんとも凄いものだ。ケイト・ブランシェットをあらためてwikiで調べたら、キャリアスタートは舞台で、しかも『オレアナ』もやったのか。『オレアナ』といえば脚本が書かれた直後にフランスではシャルロット・ゲンズブールが演じたから印象深い。日本では長塚京三と若村麻由美の印象で、後年、同じく長塚と永作博美がやったことは、わすれていた。記憶が途切れている。

Friday, June 5

前に街でサックスブルーのタイトスカートをお洒落に履いている女性を見かけて、あー、あのスカートいい! あんなスカートほしいな、と思った、まさにそんなスカートを見つけたので、迷わず購入した。吊りベルトも付いていて、今年風。あまり洋服のことはここに書いてないけれど、書くときりがないくらいとはいわないまでもけっこうな数の洋服を買っていて、わたしは洋服が本当に好きなので洋服のことについて書くとタガが外れそうで、あまり書いていないのであって、洋服のことならいくらでも書くことができるくらい、わたしは洋服というものが大好きだ。

Saturday, June 6

午前4時半、目覚めてラジオをつける。きょうもまた、きょうが何曜日かわからなかった。ここ数ヶ月、そんな朝が続いている。曜日の感覚がない。窓の外では音をたてて雨が降っている。アイロンがけなど雑用を済ませ、バタートースト、目玉焼き、ベーコンと小松菜のソテー、ヨーグルト、珈琲で朝ごはん。食べ終わる頃には雨があがって薄水色の空が顔をだし、雲がものすごい速さで流れていくのが見えた。

支度をして出かける。上野の東京藝術大学美術館で「ヘレン・シャルフベック 魂のまなざし」を観る。素朴で力強くて、驚くほどモダン。シャルフベックは昨年、ヘルシンキのアカデミア書店で画集を見つけ、その数分後に国立アテネウム美術館で実際に絵を観て以来、すっかり虜になってしまった画家だ。なんていい絵なんだろう、日本でも紹介されれば絶対人気出るのに、と思った。その機会がこんなに早くめぐってくるなんて。これだから人生はやめられない。セザンヌやピカソを敬愛し、シャヴァンヌ、ホイッスラーなどから影響を受け、ベラスケスの作品の模写も難なくこなす。晩年近くにはエル・グレコに傾倒し、再解釈ともいえる作品を残した。とにかく絵がうまいし、さまざまな技法も駆使して、最終的には平面的で抽象画にも似た自らの画風を確立した。雑誌やモードの世界にも影響を受け、おまけにお洒落だったのだそう。知的好奇心が旺盛だったのだ。図録をゆっくり眺めるのが楽しみ。

いい絵を観てお腹がすいたので、上野公園のPARK SIDE CAFEで春野菜のミートドリアと赤ワインでお昼。地下鉄に乗って移動。表参道へ。ラットホール・ギャラリーで「ジム・ランビー Sun Rise Sun Ra Sun Set」、スパイラルで「ミナ ペルホネン展覧会 ミナカケル」、Paul Smith SPACE Galleryで「フランク・ボーボ SWIMMING POOL」を観る。スイミング・プールという場所が好きなので、フランク・ボーボがとらえたニューヨークとパリのデコラティブなプールや、プライベート・プール(らしきところ)の写真を観て楽しむ。Paul Smith SPACE Galleryのテラスが大好きなのだけど、きょうは鍵がかかっていて外に出られなかったのが残念。国連大学前のマーケットを一巡してから青山通りを下り、cocotiのカフェでヒューガルデンホワイトを一杯飲んで、トゥモローランド、ユナイテッドアローズと、夫の買い物に付き合う。夫は久しぶりに洋服を買った。

Sunday, June 7

午前4時半、目覚める。夕べは遅くまで本を読んでいたのに、なぜかパッチリ目が覚めた。大平一枝『東京の台所』(平凡社)読了。東京に住む人々の台所を淡々と紹介していくだけの本かと思いきや、これは住民たちの多様な人間ドラマの集積だな。読み終えてもまだ5時40分で、うひょひょこれはいいね、まだ時間早いね、きょうという日はまだたっぷりあるね、いいねいいねと調子に乗ってちょいと30分くらいベッドで休もう…とふとんに潜ったのがまずかった。そのまま7時半までうたた寝してしまった。まあいいか…。朝ごはん、バゲット、レバーパテ、目玉焼きと小松菜のソテー、ヨーグルト、珈琲。洗濯物を干してから、図書館と、スーパー3軒まわって帰宅。先日購入した、若山曜子『作りおきできるフレンチデリ』(河出書房新社) [1]をもとに、夫がタコとセロリのマリネ、鰹のコンフィをつくってくれた。お昼はつくりたてのマリネ、冷麦、ビール。わたしは夕飯用の鶏もも肉に下味をつける作業をしただけで少し休憩したくなり、ソファで本を読み出したら眠くて仕方ない。そのまま14時半から17時までうたた寝してしまう。これはうたた寝というより昼寝だ。きょうは寝てばかりいる。わたしは眠ることが嫌いなのに。夜は、午後に仕込んでおいた肉をオーブンで焼いて、バゲットとレバーパテ、鰹のコンフィ、タコとセロリのマリネ、キャロットラペも並べて、赤ワイン。ヘレン・シャルフベックの話をする。早起きはしたけれど不本意な睡眠もたくさんとってしまった、いささかくやしい一日。

  1. この本、どれも美味しくできておすすめです。 []