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Wednesday, April 22

『ゴーン・ガール』(デヴィッド・フィンチャー監督、2014年)を観る。人は自分に課せられた(と感じる)役割を、多少なりとも演じながら生きている。いくつも仮面を付け替えて。まったくの他人と生活をともにする“結婚”という場でもそれは変わらない。そうした普遍的な事実を映画というメディアに上手く落とし込んで、ドラマとして良くできている作品だと思った。でもそれ以上の感慨はあまりない、というかけっこう笑ってしまって、ブラックコメディだよね、これは、と思いながら観ていた。

とは言いつつ、けっこうのめり込んで観てしまって、ロザムンド・パイク演じるエミリーには、何よこの女は、とむかっ腹が立って最後には一泡吹かせてほしくてイライラしてしまったのだけど、それはひとえにパイクの演技が素晴らしかったということで、でも、それ以上に、ベン・アフレック。…よかったなあ。あらすじを何も知らずに観たので、途中まで、アフレックが本当に奥さんをどうかしちゃったのかしらと、真偽のほどを知らなかったのだけれど、最初に“ヒント1”だかのカードを見つけた時に女刑事から質問を受け、ベン・アフレックが「わかった!」と笑顔でこたえる場面、あの人の良すぎる笑顔は何だ。前々から、ちょっと情けない役がよく似合うなあ、あの顔と、体格のわりにちまっとした小さな口のせいだなあ、などと思っていたわたしは、もうあの笑顔で、こいつ、本当に何も知らなさそうだな…、と半ば確信したのだった。あと、冒頭の、薄暗い街や家並みの様子を固定ショットで映していくシーンは印象的だった。ほんの少し、エドワード・ホッパーの絵を思い出したりもした。

Thursday, April 23

6時10分起床。きょうから日の出時刻が4時台に突入したというのに寝坊してしまった。今週はもうずっと、あまり体調がよくなくて早起きすることができなかった。こんなゆるふわな生活をしているのに、こんなに疲れやすい身体でこれからもやっていかねばならないのかと、体力のなさはいまに始まったことではないが、いささか不安になる。週5日勤務を難なくこなし、バリバリ残業したりする同世代女性とわたしは何が違うのだろう。たとえば滋養強壮ドリンクとか飲んでなんとかなるもんなんだろうか、よくわからない。

江國香織『薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木』(集英社文庫)を読み終える。先日読んだ『金平糖の降るところ』も良かったが、これもまた、よかった。登場人物が極めて多く、秒刻みでひとりひとりにスポットライトがあてられる。それでもひとりひとりの人物には色があり、重みがあり、体温があり、読み手の心の中にとどまる。こうした群像劇も、ときどき江國さんには書いてほしい。

Saturday, April 25

窓から見えるハナミズキはどうやら先週が盛りだったみたいだけれど、モッコウバラはやっといま、満開だ。今年も豊かに咲いてくれてよかった。モッコウバラは丸くて小さな真ん丸の蕾も本当に愛くるしい。朝ごはん、ビーフシチュー(夕べの残り)、バゲット、レバーパテ、ヨーグルト、珈琲。朝にシチューを食べるのは、身体が温まってエネルギーが蓄えられる気がして、良い。

きょうは広尾、六本木、銀座でギャラリーをめぐる予定。まずは広尾。広尾の街は好きだ。特に、春の終わりの広尾は明るく清々して素晴らしい。お蕎麦屋さんで腹ごしらえ、半せいろ、ネギトロ丼、味噌汁、漬物の丼セットをいただく。とても美味しい。そしてすごいボリュームだ。これで1000円は安過ぎでは。

エモン・フォトギャラリーで「市橋織江 WAIKIKI」を観る。その場の光と色彩を生け捕りにしたような市橋さんの作品には、幸福感、祝祭感、などの言葉が添えられることが多いけれど、そんな言葉とは裏腹に、ものすごく醒めた視点を感じる。たとえばセンチメントやサウダージがない、メタファーやアレゴリーなんかもない。余計なものがない、写されたものがすべて。それがやはりこの作家の魅力だ、とハワイの写真を観ながら考える。

六本木に向かい、アクシスギャラリーで「ゼラチンシルバーセッション」、タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムで「エド・ヴァン・デル・エルスケン セーヌ左岸の恋」を観賞。ゼラチンシルバーセッション、見応えがあった。印象に残ったのは、中野正貴×本城直季、井津由美子×辻佐織、鋤田正義×宮原夢画の3組。「セーヌ左岸の恋」も迫力があった。つい先日、写真集を手に取ったばかりだった。もう一度、あらためてじっくり眺めてみよう。

銀座では、資生堂ギャラリーで「椿会2015 - 初心- 」、メゾンエルメスで「線を聴く」、ポーラ ミュージアム アネックスで「ポーラ ミュージアム アネックス展2015(後期)-ザ・ニュー・ヴィジョン- 」と続けて観る。ポーラ ミュージアム アネックス展の、飯沼珠実さんの展示、観る価値あり。写真そのものも、写真の外にひろがる物語も豊かで、見せ方にも魅力があった。写真にテキストを添える手法は平出隆を思い出したりもするけれど、やろうとしていることは異なる。夕ごはんはコリドー街で、焼鳥各種、大根とじゃこのサラダ、豆腐の唐揚げ、ビール。〆に(同じお店で)ラーメン。ラーメン美味しい! カレーとラーメンはいつでも食べられるし、いつ食べても美味しい。 人生は「ラレー」(©佐内正史)である。