212

Thursday, April 16

およそ六日間にわたり続いた発熱がようやく収まり、体調もなんとか回復に向かいつつある。毎年春になると必ず身体の具合が悪化して、季節の変わり目だからなどという都合のよい理由で説明するのも辟易するほどに、例年苦しんでいる。なんとかしたいけれどもなんともならない。花粉症と風邪の合併症のようなものかもしれない。

以下は体調を崩しているなかで読んだものをメモとして。体調の悪さを反映してまるで統一感のないラインナップとなっているが、しかしながらよくよく考えてみれば、たとえ健康なときであってもその読書にまともな一貫性などないことを思う。
・『花椿』5月号(資生堂)
・『東大ハチ公物語 上野博士とハチ、そして人と犬のつながり』(一ノ瀬正樹・正木春彦/編、東京大学出版会)
・富永讓『吉田五十八自邸/吉田五十八 ヘヴンリーハウス 20世紀名作住宅をめぐる旅』(東京書籍)
・大澤真幸『自由という牢獄 責任・公共性・資本主義』(岩波書店)
・ピョートル・ワイリ+アレクサンドル・ゲニス『亡命ロシア料理』(沼野充義、北川和美、守屋愛/訳、未知谷)
・谷口功一『ショッピングモールの法哲学 市場、共同体、そして徳』(白水社)
・植木千可子『平和のための戦争論 集団的自衛権は何をもたらすのか?』(ちくま新書)
・玄田有史『危機と雇用 災害の労働経済学』(岩波書店)

Friday, April 17

夕食は近所のカフェで。

夜、『永遠の語らい』(マノエル・ド・オリヴェイラ監督、2003年)を見る。ヨーロッパという場所の底力を誇示するようでもあり、同時に西欧文明の斜陽を暗示するかのようでもある客船での地中海の旅は、船がイスラム圏に入ったところで、映画は、唐突にテロリズムで終焉を迎える。公開当時、ラストシーンに面食らい、初見から10年以上が経過していても、ここで終わりかよ、という唐突さがあまりに印象深くて、さらには、ヨーロッパの黄昏に抗するかのように未来に対して「希望」をもっていたであろう母娘が、母娘のふたりだけが、テロリズムの犠牲になるという容赦ない展開とともに、この映画は記憶のなかにずっと滞留しつづけている。

Saturday, April 18

朝、ホットケーキを焼き、珈琲を淹れる。

丸ノ内線の御茶ノ水駅で降りて、日本のブルーノートがやっているcafe 104.5で昼食をとる。プレートメニュー(バゲット、サラダ、豚肉のステーキ)とフライドポテトを食べ、オリジナルのペールエールを飲んだ。入口をはいるとすぐ食をテーマにした本棚があって、幅允孝が選んだような本棚だなと思って確認したらそのとおり幅允孝だった。

山の上ホテルの方面に向かい、錦華公園を抜けて、The Whiteで森谷雅人×石井保子「KAWASAKI/KAWAGOE」を見る。川越にある郊外の一軒家を撮影した石井さんの写真はとてもよいのでブレイクして欲しい。

神保町方面に向かって歩いていると、ものすごい行列が出現。長蛇の列の先にはうどん屋が見える。ちょうど読んでいた『私の食物誌』(中公文庫)で吉田健一が「関東のうどんはまずい」と断言しているのを目にしたところで、でもこの店は13時をすぎても大行列なのでおいしいのかもしれない。

神保町で古書店めぐり。以前は古本屋で本をさがしている時間をもったいないと考えていて、その時間を読書にあてたほうが効率的だとたいへん功利的な思考に染まっていたのだが、最近は古本屋めぐりも楽しいと思えるようになった。こうした感慨は歳をとっただけのことかもしれないが。途中、スタバで休憩。新商品らしいフルーツ-オン-トップ-ヨーグルトフラペチーノを注文しようとしたら売り切れ。

古本屋で購入したのは、吉田健一『絵空ごと・百鬼の会』(講談社文芸文庫)と『読書の現在 読書アンケート 1980〜1986』(みすず書房)。後者のみすず読書アンケートをまとめた本は収穫だ。こんな本があったのかという驚きと、80年代の7年分を収録というその中途半端さはなんなのかという疑問と、アンケートに回答している知識人たちが軒並みこの世を去っている、など注目ポイント多し。

神保町から都営三田線に乗って西巣鴨で下車。大正大学のギャラリーESPACE KUUで「林典子写真展 アラ・カチュー キルギスの誘拐結婚」を見る。きわめて正統派のフォトジャーナリズムという佇まい。誘拐結婚というと独身男の暴走かと想像したのだが、男性側の親族総出で誘拐に加担していると知っておののく。

夜、かぶとピーマンとトマトのペペロンチーノ、バゲット、レバーペースト、赤ワイン。

Sunday, April 19

朝、ホットケーキを焼き、サニーレタスときゅうりとミニトマトのサラダをつくり、珈琲を淹れる。

午前中は図書館で本の返却と貸出、スーパーで買いもの。お昼は、わかめのおにぎりと鮭のおにぎり、大根ときのこの味噌汁、蛸のわさび醤油、ビール。

少しの昼寝と読書。吉田健一『私の食物誌』(中公文庫)を読み終える。

そういえば食器は食べもののうちに入らないのだろうか。例えば日本料理は見るものなどということを言うが、話を洋食に戻して、西洋料理でもその味が食器に多分に左右されて、ここで一番簡単な例を言うとカレーライスというのは上等な皿に御飯を盛って脇に銀器にでも注いだカレーを付けて出されたりするとまずくなる。これは親子丼が丼あってのものでそれがこの頃のように親子重箱になればつまらないのと同じで、それだから名が知れたホテルの食堂などでカレーライスを注文するものではない。

玄関のチャイムが鳴り、注文しておいた北欧の食器が届く。ロールストランドのボウルとアラビアのボウル。このお椀にどんな料理を入れたらまずくなるのか知りたい。

夜、白米、わかめと長ねぎの味噌汁、豚キムチ、きゅうりの塩麹漬け、そら豆、ビール。豚キムチとロールストランドのモナミボウルは衝突することなく収まる。