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Tuesday, March 17

今月号の『GINZA』の特別付録『おとなのオリーブ2015』を読む。この、おとなのオリーブの表紙のビジュアルを初めて見たとき、すぐさま思い出したのは元祖『オリーブ』の1991年6月18日号だった。この号には巻末あたりに「ブルーズ。」と題されたちょっとした特集があり、シエルブルーとかチャイナブルーとかプラネットブルーとか、いくつかのブルーをテーマに、いかにも“オリーブ”的な、広義のファッションページになっている。スタイリストは近田まりこ。このページにとても雰囲気が似ているな、と思ったのだった。実際にこのたび誕生した大人のオリーブをひらいてみれば、やはりこの表紙の写真が含まれたページ「ブルーズ。」はかつての「ブルーズ。」のオマージュであるようだった。2015年の「ブルーズ。」では、飯田珠緒がスタイリングを手がけていた。

この1991年6月18日号はわたしのマイ・ベスト・オリーブだ。誌面づくりは言わずもがな、情報量も豊かで、いちばんよくできた号なのではないかと思う。手にしてから24年もの間、ことあるごとに引っ張りだして眺めている。この号でスタイリストの上田幸代がゴダールの『はなればなれに』を紹介してくれたおかげでこの映画の存在を知った。それからちょうど20年後の2001年、銀座で、日本で初めて『はなればなれに』がロードショー公開されたのだった。

こんなふうに世の中には、“わたしのオリーブ物語”の断片が無数に散らばっているはず。

Wednesday, March 18

きのうきょうと本当に暖かく、もうすっかり春ねえ、と言い出す人々も多いが、なかなか冬はしつこいよ、と思っていたら、気象予報士の増田雅昭さんもそう解説していた。気象予報士の中では増田さんびいきなので、とりあえず、増田さんの予報を信用している。週末からまた寒の戻りがあるとのことで、予報の動画があったので見てみたら、まだまだ来週は寒気が残っており、「“何か降ったら雪になる”可能性がある」と説明していて、その言い回しがちょっと可笑しかった。何か降ったら雪になる。飴が降ろうが金が降ろうが雪になる。

Thursday, March 19

『悪童日記』(ヤーノシュ・サース監督、2013年)を観る。退屈。始まって10分ほどで時間が気になり出してしまった。最初は原作が凄過ぎるせいなのかと感じた。が、そういうことではないようで、いまいち映画にのめり込めない。途中で手放すことになるものの、お守りのように母の写真を大切にしていた彼らは日々“勉強”することで知性や教養という言葉では説明し得ない、何か大きなものを身につけていくように思えるのだけれど、そこまで勉学に励んだのも母が望んだことだからであり、その母に背いて、ふたりは祖母のもとにとどまる。頭をたたかれたりこずかれたりろくな食べ物を与えられなかったり、挙げ句に暖かい洋服を隠されたりといったひどい仕打ちを受けた祖母のもとに。とどまってもいいのだけれど、とどまることの説得力が、あの語りのもとにはない。ストーリーの進行や、双子の変化ぶりがあまりに急過ぎやしないか? 彼らが本物の悪童に変身するのであれば、物語の初っ端から双子の不気味さをもっともっと出すべきだと思った。原作ほどの、えも言われぬ、唯一無二な不気味さを出せとは言わないが、せめてもう少し。あと、音楽がダサい。でもこの映画は、面白くなくても観るべき映画。観てよかったことは間違いない。やっぱり映画は観ないとね。

Saturday, March 21

上野の森美術館で「VOCA展2015」を鑑賞。今年はそれほどピンとくる作品がないなあ、物足りない、と思いつつ観ていたのだけど、最後の最後の一角で、竹村文宏、瀬尾夏美の作品に出会えてときめいた。竹村文宏は一見、静かなポロックといった佇まいの抽象画だなと思って近づくと、画布に塗られたアクリル絵具がそのまま、観覧車やタワー、橋などの極めて精細な構造物として立ち上がっていることがわかった。これには驚いた。この人の作品、もっと観たいと思う。一方、面白かったのは奥村雄樹の今回の出典作品に関するあれやこれやだった。どうやら「会田誠に本気でVOCA賞に出品する作品を描いてもらう」「それを展示する」といったような作品を目論んでいたらしく、結果としてそれは頓挫したわけだけれど、選考委員の選評を図録で読むと、高階秀爾さんは奥村さんのそうした試みそのものには関心があるようで、嬉しく思った。それにしても奥村さんのタイトル(うろ覚えだけど)を見るとどうしたって丹羽良徳の「ルーマニアで社会主義者を胴上げする」や「水たまりAを水たまりBに移しかえる」や「ベルンで熊を拍手喝采する」を思い出してしまう。

上野公園にあるPARK SIDE CAFEでお昼。外のベンチに座って順番を待っていたら、目の前のベンチに座った老夫婦の飼い犬がとても可愛くて、おとなしくて、賢くて、目が離せなかった。わたしは断然猫より犬派です。犬種は何だったのだろう? しばらく待たされた末にありついたのは、リードヴォーのミートソースパスタと赤ワイン。美味しくいただく。リードヴォーなるものを初めて知る。食後に公園をボレボレ歩くと、もうすでにゴミ箱が花見仕様になっており、気が早いなあ、と思って見ていたら、もう咲いている桜もちらほら。花見客もちらほらどころか、わりといた。女子大生と思しき2人が静かに缶ビールを飲んでいて、おっ、いいねいいねいい感じだね、と微笑ましく眺めた。

不忍池に沿ってぐるっとまわって、ベルリンにでもありそうな佇まいの迫力あるマンション、湯島ハイタウンを横目に、旧岩崎邸庭園に向かう。タイミング良く、入ったらちょうど「午後のミニコンサート」が始まるところだった。赤い絨毯に丸い照明のバルコニーで、男性テノール歌手が若々しい歌声を聞かせてくれた。傍らにはピアノ伴奏者。庭園を訪れた人々が次々と吸い寄せられて、舞台に向かって聴き入っている、そういう風景を見ると、ああ、アンゲロプロスっぽい、と思う。生きているとしばしば、アンゲロプロス的瞬間が目の前に現れる。それをできるだけ捕まえていきたいと思う。

前に訪れたのはかれこれもう10年前くらいになるだろうか、湯島ハイタウンにある輸入雑貨店nicoに久方ぶりに立ち寄ってから、スカイ・ザ・バスハウスに向かい、「名和晃平 FORCE」を鑑賞する。奥の部屋に設置されていた、天井から漆黒のオイルインク(?)がシャワーのように降り注ぎ、地面に水溜りをつくる作品は圧巻で、名和晃平の作品はインダストリアルでありながら出現するものはとてもリリカルで、そこが揺るぎない魅力なのだなあと思う。

初台に向かい、ブック・カフェ・ギャラリーMOTOYAで「もうひとつのBook Fair」。ビールを飲みながら、いろいろなリトルプレスを手にとって眺める。こういうのを作りたいなあと思う気持ちはいまでもある。でも作るならわたしひとりだけで作るだろう、きっと、そういうやり方しかわたしはできないだろう。

Sunday, March 22

所用を済ませた後、学芸大学のCLASKA Dining & Cafe kiokuhで、ジャパニーズキーマカリー+日本ハーブと塩麹タンドリーチキンのサラダとスープのセットを食し、白ワインを飲んだ。ここの食事はとても美味しい。食後は屋上にのぼって、デッキで風に吹かれながらしばらくぼんやりしていた。帰り道、SUNNY BOY BOOKSに寄って楽しみにしていた『なnD』第3号を購入。