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Monday, March 2

夜、タコとトマトとベビーリーフのパスタ、ビール。夕食の献立で「ビール」と表記した場合、わりとだいだいはビールなのだが時折「麦とホップ」の場合もあって、本日は「麦とホップ」だったのだが、でもだいたいはビールなんですよ、って誰に対して訴えかけているのかこれは。

Tuesday, March 3

行き帰りの通勤時間でちびちびと読みつづけていたリチャード・パワーズの『Orfeo』が物語の終わりを迎えた。意味がうまくつかめなかった部分はいずれ刊行されるであろう翻訳で確認したい。

夜、白米、茄子とキャベツの味噌汁、冷奴、ほうれん草のおひたし、焼き魚(ほっけ)、キムチ、ビール。

佐藤優『神学の思考 キリスト教とは何か』(平凡社)を読む。

Wednesday, March 4

夜、茄子とひき肉のドリア、キャベツとベーコンのスープ、赤ワイン。つくりすぎ&食べすぎで、つらい。

柴崎友香『パノララ』(新潮社)を読む。柴崎友香の書くものはホラー小説として読んでいる。

Thursday, March 5

夜、万能ねぎをのせた木綿豆腐の煮込みうどん、ビール。

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(ヴィム・ヴェンダース/監督、1999年)を見る。

Friday, March 6

夜、茄子、トマト、ほうれん草、ベーコンのパスタ、赤ワイン。

『エコノミスト』誌を読む。

Saturday, March 7

『蜂の旅人』(テオ・アンゲロプロス/監督、1986年)を見てから外出。

渋谷のTSUTAYAに立ち寄り、そこからバスで初台に向かう。開店時間である夕方4時ちょっと前にfuzkueに到着したら、そばのドラッグストアから出てきた店主に遭遇したので、「ブルータス見て来ました!」 [1]と伝えるも軽くいなされる。ビールを飲み、定食を食べ、赤ワインを飲み、そして読書。持参した『みすず』読書アンケート特集(みすず書房)、『UP』3月号(東京大学出版会)、読みさしの『Eichmann Before Jerusalem』などのページをめくっているうちに、4時間あまりの時間がすぎていた。

ところで、fuzkueはそれまでの値段を設定しない投げ銭システムをやめて、各メニューの値段をつけるようになった。くわしい経緯はfuzkueのWebサイトに掲げられた店主の説明にあるけれど、そこでなんとなく思い出したのは『途方に暮れて、人生論』(草思社)という本に収められている「カネのサイクルの外へ!!」というエッセイで、著者である保坂和志はつぎのように書いている。

現代の人間に必要なことは、カネのサイクルの中で成功することではなく、カネのサイクルの外に出ることなのだ。これができるのは皮肉ではあるが金持ちだけだ。貧乏人でも離島で暮らすなり何なり、カネのサイクルの外に出る道はいろいろあるけれど、一人でひっそりそうするだけだ。金持ちだったら、周囲への訴えかけとしてカネのサイクルの外に立つことができる。
「カネのサイクルの外に立つ!」
金持ち・土地持ちのみなさんは、ぜひこれを人生最上の価値観として生きてほしい。私は金持ちではないが、カネのサイクルの外に立つ道を日々模索している。これこそが二十一世紀の人間の形而上学なのだ。

fuzkueが価格を設定したことと保坂和志の書いていることにはなんの因果もないのだが、fuzkueを訪れるたびにカネのサイクルについて考えてしまう。投げ銭システムの時期、fuzkueを訪れた人から値段は決めてほしいという意見を聞いた。決めてもらったほうが入りやすいと。それには同感で、率直なところ、わたしも決めてもらったほうがいいと思った。だから今回のシステム変更は客としてはありがたい。しかしここで問題にしたいのはいったい何がありがたいのか? ということである。値段を決めてもらったほうがありがたいということ。それはつまり、単純化していってしまえば、支払いについてあれこれ思案する気苦労が減るという話である。しかし、先に引用した保坂和志の言葉を借りれば、それは完全にカネのサイクルの中にいる。好きなように支払いをしていいといわれたとき、好きに支払っていいはずなのに、どうしたって相場を念頭に置いてしまうじぶんがいる。相場というか市場というか、あるいはもっとべつのいい方で、他者というか。いずれにせよ、カネのサイクルの中での考えだ。自由なはずなのに自由じゃない。

保坂和志はカネのサイクルの外に立て、と書くけれど、わたしは必ずしも中に留まっていることが悪いとは思っていなくて、話を敷衍してしまえばむしろその資本主義の原理、呪縛的といってもいいほどの強烈な原理に感嘆する。感嘆している場合ではないかもしれないが、感嘆する。カネのサイクルはすごい。そう簡単には外には立てない。わたしの欲望は他者の欲望である。わたしの支払った金額は、ほかの匿名的な誰かが支払った金額を意識している。

10月半ばのオープンから2月末まで、4ヶ月ちょっと経ったけれど、キレイなくらいに希望小売価格に寄り添った数字になっている(平均単価で見ると97円プラス)。これはすごいことだなと。 [2]

経済学的にはたいへん興味ぶかい事象がここに発生していると思うのだけれど、ともかく、システムは変わった。で、ともかく、fuzkueはいい店です。

Sunday, March 8

岡本裕一朗『フランス現代思想史 構造主義からデリダ以後へ』(中公新書)を読んだら、日本人による研究への言及がまったくなくて、何かしらの意図を感じる。

花屋でミモザを買う。

夜、ビーフシチュー、グリーンリーフとトマトと玉ねぎのサラダ、赤ワイン。

飯田洋介『ビスマルク ドイツ帝国を築いた政治外交術』(中央新書)と嶋浩一郎+森永真弓『グルメサイトで★★★の店は、本当に美味しいのか?』(マガジンハウス)を読む。

  1. fuzkue : フヅクエ、値段決めるってよ []
  2. 同上 []