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Thursday, January 8

きのうの朝は例年通り、七草粥を鍋いっぱいにつくってすっかりたいらげ、午前中は胃の重さに苦しむという、お正月で疲れた胃腸を癒しましょうという意もある七草粥の理念に反した過ごし方をしたわけだけれど、今朝、ピザトーストを食べながら昨夜録音した沖野修也のラジオ「JAZZ ain’t Jazz」を聴いていたら、冒頭、沖野修也が七草粥の話をしていた。この番組で沖野修也は冒頭に数分間トークをするのだけれど、それが毎回なかなか面白い。以前、京都の東福寺は重森三玲の「方丈庭園」が有名だけれど、洗玉澗を取り囲むカエデがあるほうの豊かな緑も素晴らしい、というようなことを話していて、わたしも常々そう感じていたので嬉しく思った。

昨年のクリスマス当日の放送で沖野修也は、もうそろそろ、クリスマスは恋人たちが楽しく過ごすもの、シングルの人たちが寂しい者同士として集まって傷をなめあうように過ごすもの、という位置づけはやめよう、もっと友人が集まってパーティーして楽しむとか家族でゆっくり過ごすとか、そういう位置づけにしようよ、という主旨のことを話していて、まったくだ、もっともだ! もっと言って! と興奮した。わたしは子どもの頃からクリスマスが大好きだったけれど、それは『大草原の小さな家』で家族や親族が集まって暖かい家の中でにぎやかに過ごしているシーンが刷り込まれているせいも多分にあって、大学生の頃からか、クリスマスは恋人とふたりだけでなんかいないでみんなで集まってパーティーしようよ! 恋人のいる人はふたりで来ればいいしいない人はひとりで来ればいい、そんなことに振り回されるのはやめようよ、と毎年心の中で叫んでいた。まあ実際は心の中で叫ぶだけで自分で企画するのも面倒だし、呼びかけたところで誰も来てくれないだろうしなー、と思って黙っていたが。

『KINFOLK』が出てきたときに、もしかしたら日本のクリスマスも変わるかもしれない、と思ったのだ。しかし世間的にはまだまだ、日本のクリスマスは従来のそれとして認知されているはず。沖野修也のような人にもっともっと主張してほしいものだ。

夜は、『生活の設計』(エルンスト・ルビッチ、1933年)を観る。ふつうに考えればドロドロになりそうな話を洗練されたコメディにまとめている。それにしても気持ちいいくらいテキトーな筋書きである。

Friday, January 9

本日、やっと展覧会初め。1月2日の写美詣でがないと調子が狂う。

竹橋へ。東京国立近代美術館で「高松次郎ミステリーズ」、奈良原一高 「王国」を観る。「高松次郎ミステリーズ」は、把握し難い高松次郎の創作活動を丁寧かつ鑑賞者参加型の仕掛けも用意してわかりやすく展示。勉強になった。「王国」は北海道のトラピスト修道院と和歌山の女性刑務所をモノクロで撮影したもので、さすがの傑作、会場を4周くらいぐるぐるまわる。エピグラフとして掲げられているカミュの『ヨナ』をすぐにでも読みたくなった。所蔵作品の展示室にて、奈良原一高のデビュー作「人間の土地」シリーズから、長崎の軍艦島を撮影した「緑なき島」と桜島が舞台の「火の山の麓」も観る。

六本木に移動し、IMA CONCEPT STOREで「パリ・フォト—アパチャーファウンデーション・フォトブックアワード展」。友人がTwitterで薦めていたMike Brodieの『A Period of Juvenile Prosperity』、観ることができてよかった。ほかに、リトアニアのVytautas V. Stanionis『Photographs for Docuents』(1946年、作者の父により撮影された、リトアニアの国民に取得が義務づけられたソ連の身分証明書写真を息子である作者がプリントし、編纂したもの。写真集のつくりが観音開きなのは、実際にその証明書が真ん中で分断された状態で用いられていたことによる)、ドイツのラファル・ミラフ『7 Rooms』(ソビエト時代に生まれペレストロイカを経験し、いまは郊外に暮らす人々を写したもの)、イギリスのOlivia Authur『Jeddah Diary』(目にする機会が極めて少ない、サウジアラビアの女性のプラベートな日常を捉えたもの)がよかったのでメモしておく。

続けてタカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムで「リナ・シェイニウス Exhibition 03」、FUJIFILM SQUAREで「土門拳 風貌」を観てから、国立新美術館で「未来を担う美術家たち 17th DOMANI・明日展」。青木克世めあてで行ったが、小林俊哉、岩崎貴宏が新たに知れてよかった作家であり、MOTアニュアル2011でも印象に残った関根直子はやはり知的であり、入江明日香はさすが上手い、しかし、わたしにとってはやはり青木克世である。マテリアルと造形が抑制のきいた照明効果を得て生み出す美しさは圧倒的だ。一生ついていきます! 美術館3階の図書室で30分ほど読書して帰る。

夜は、お寿司とビール。お正月に録音した、NHK-FM「カーペンターズのヒットを作った男~ロジャー・ニコルスの軌跡~」を聴きながら。

Saturday, January 10

朝ごはん、クロワッサン、サニーレタスと紫玉ねぎのサラダ、ヨーグルト、珈琲。きのう観た関根直子について、「MOTアニュアル2011」のプログラムでどのようなテキストが掲載されていたかを知りたくて、当該のプログラムの発掘作業を行う。展覧会関連のペーパーはかなりかさばり、場所もとるが、やっぱり何かのときに助けになってくれるから捨てられないし、当分、捨てるつもりもない。青木克世の作品写真と学芸員による作品解説が掲載されている「MOTアニュアル2010」の図録も繙く。

『按摩と女』(清水宏、1938年)を観る。高峰三枝子の姿かたちに見惚れる。なんて涼やかな美しさ。役者たちはみな達者で、ディテールの豊かさ、音楽、構図、撮影ともに素晴らしく、さすが清水宏だった。お昼はミートソーススパゲッティを食べ、午後は、高田博行『ヒトラー演説 熱狂の真実』(中公新書)を読む。数日前から無性にグラタンが食べたかったので、夕ごはんにチキンとじゃがいもと玉ねぎのグラタンをつくる。ほかに、ペコロスとベーコンのスープ、水菜ときゅうりとナッツのサラダで赤ワイン。皮をむいて丸ごと入れたペコロスが、とろんと溶けて甘い。

Sunday, January 11

『ヒトラー演説 熱狂の真実』読了。言語学者である著者が「ヒトラーの演説文を客観的に分析できるように、ヒトラーが四半世紀に行った演説のうち合計五五八回の演説文を機械可読化して」作成した「総語数約一五○万語のデータ」に基づき、なぜヒトラーの演説は聴衆の熱狂的な支持を集めたのか、その効果はいつまで続いたのか、を分析。戦時中の諸々の事象はあえて詳細には取り上げず、演説のみに的を絞った論の展開で、明快。

夜は、恵比寿まで赴き、Rue Favartでニース風サラダ、スフレオムレツ、かぼちゃのニョッキゴルゴンゾーラソース、赤ワインをいただく。2015年も、初心忘るべからず。