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Thursday, January 1

午前4時半に目が覚める。ラジオをつけて、うとうとしながら聴いて、日の出時刻の少し前にマンションの屋上に初日の出を見に行く。

いつもの朝と同じようにすべての部屋の拭き掃除をして、身支度して化粧もして、お雑煮をつくり、おせちとお屠蘇も並べる。今年のおせちは毎年同じ、紅白なます、鮭の昆布巻き、黒豆とチョロギ、たつくり、卵焼き、うずらの卵、蓮根の煮物、絹さや、紅白かまぼこ、伊達巻に、イクラの柚子釜を加えた。もともとイクラが大好きなのだけれど、このところとりわけ食べたくて仕方が無くなっていたため。BGMはきのうに引き続き、NHK-FMのフリードリヒ・グルダの特集番組(ゲストMCに小曽根真)。Twitterをひらくと、TLは「雪が降ってきた!」の声でいっぱいだったけれど、なぜか我が家のほうでは降る気配がまったくなかった。

お正月は自宅シネマ。きょうは2本観る。まず、『簪』(清水宏監督、1941年)。今年最初に観る作品はこれにしようと決めていた。笠智衆が好きなので、彼目当てで観始めたが、斎藤達雄が見ものだ。演技がいちいち可笑しくてたまらない。日守新一も良い。穏やかなユーモアに満ちた牧歌的な作品で、お正月にふさわしかった。ところで笠智衆は清水監督の作品をとても気に入っていたようで、その出典は『大船日記 小津安二郎先生の思い出』であるとWikipediaに書かれている。笠智衆の本は2冊ほどしか読んでいないので、近いうちに読んでみようと思う。続けて『熱波』(ミゲル・ゴメス監督、2012年)を観る。久しぶりに映画映画した映画を観た! という感じ。凡庸といえば凡庸なストーリーを、映画技法を巧く用いながら飽きさせることなく見せていた。

夜は、シャンパンをあけて、テリーヌ、オリーブ、黒豆、マッシュポテトに舌鼓を打つ。丸山真男『日本の思想』(岩波新書)を読んでから就寝。お正月の花として部屋に飾った蘭2種(オンシジウムとシンビジウム)がとても華やかに咲いている。

Friday, January 2

きちんとお正月料理を食べるのは元旦だけでいいと思う。というわけで、きょうはホットケーキを食べたりタイカレーを食べたり。

昨年はここ数年でもっとも本も読めず映画も観られなかった年だったけれど、まあ、そういう年もある。今年はそれをくり返さずに、できる限りいろいろと積み重ねていきたい。映画は、観たいと思わせる新作が公開されるたびに劇場に観に行くことはもう難しくなった。映画館で映画を観る、という行為も、身体が疲れてしまうので、よっぽどのとき以外は何周も遅れてDVDで観ることになるが、それでも、観ればよいのだ、いつでも、いかなる場所でも。

昔は『ウィークリーぴあ』を毎週欠かさず買って、観に行きたい映画を選んで蛍光マーカーをひいて、マーカーだらけになったページを切り取って手帳に入れて持ち歩いていたし、連日レイトショーに通ったって翌朝なんともなかった。そして、映画を映画館で観ないなんてどういうことだ、ありえない、と考えていた。いまのわたしはそうではない。けれど、そういう時期があったよかったと心底思う。そういう時期があるとないとでは全然ちがう。いまだって、体力と気力さえあれば同じことをやってみたいな、とも思う。正直、昨年はあまり映画を観る気にもなれなかったけれど、きっと今年はちがう、もっと観たくなるだろうし、映画に関する本も読みたいものが溜まり続ける一方で、停滞してはいられない。

それはそうと、今年は毎年恒例の写美初め [1]をできないのが寂しい。2年間の辛抱である。

Saturday, January 3

朝ごはんを食べたあと、早速プロジェクターを用意して映画を観る。1本目は『愛、アムール』(ミヒャエル・ハネケ監督、2012年)。ジャン=ルイ・トランティニャン、エマニュエル・リヴァのたたずまいを見ているだけでもぐっとこみあげるものがある。ふたりとも大好きな俳優だし、老夫婦を演じる彼らの姿に、どうしたってこれまでの彼らの人生を重ね合わせてしまう。若い頃の思い出話をするトランティニャンに、エマニュエル・リヴァが、イメージをこわすような話はしないでね、と言い、イメージってどんな? と問われ、ときどき怖いけど、優しいわ、と答えるリヴァに「ワイン一杯おごるよ」と返す会話は洒落ていて魅力にあふれ、この会話ひとつでこの夫婦の親密さが読みとれて、ふたりにググッと近づくことができた。2本目は『こうのとり、たちずさんで』(テオ・アンゲロプロス監督、1991年)。10年くらい前、どこかの映画館でアンゲロプロス映画祭が開かれたとき、チラシにはこの映画のラストシーンが大きく使われていて、わたしはそれを会社のデスクに貼っていた。

夜は、あさりとトマトとベーコンと長ねぎのパスタを食べ、赤ワインを飲みながら録音しておいた「坂本龍一 ニューイヤー・スペシャル feat.ユザーン」(NHK-FM)を聴く。今年は坂本龍一が療養中のため、ユザーンがピンチヒッターとして出演した。ユザーンもほんとにトークが面白いから、ぐふぐふ笑いながら聴いた。特にハナレグミとのパートは気のおけない仲というだけあってとりわけ楽しかった。細野(晴臣)さんとはインド音楽について話がはずみ、ユザーンがかけた、インドのストリングス奏者グループが奏でる「テイク・ファイブ」がユニーク過ぎて聴き惚れてしまった。CDあったらぜひ聴いてみたいなあ。

Sunday, January 4

きょうも映画を観る。『セリーヌとジュリーは舟でゆく』(ジャック・リヴェット監督、1974年)。かれこれ20年ぶりくらいに観て、ほとんどのシーンをわすれていて、説得力に欠けるけれど、これは大好きな作品なのである。

お昼、バゲット、ハムとタコとほうれん草の炒め物、トマトと玉ねぎのスープ、コンキリエッテのオリーブオイルあえ、赤ワイン。食後にビールを飲みつつ、常備菜として長芋のソテーや根菜のピクルスなど数品をつくっておく。夜はそれほどお腹がすかず、タコのわさび醤油あえを少しだけ。買うだけ買って積読中だった金井美恵子の『エッセイ・コレクション』を読む。

  1. 毎年1月2日は東京都写真美術館が無料開館になるので通っていたが、2014年秋から2016年秋までリニューアル休館中。 []