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Monday, December 22

弁当を持参しなかった会社の昼休み、マフラーを首に巻いて冬の屋外にでる。PodcastでMONOCLEのグルメ番組を聴きながら、丸亀製麺でうどんを食べた。昼どきの丸亀製麺は周辺のオフィスビルから流れ込んだ勤労者たちでずらりと行列ができるのだけれど、回転が速いのですぐに注文の順番がまわってくる。注文したのは、かけうどんといくらのおにぎり。混みあった丸亀製麺にきてトレーにのせたどんぶりを移動させながら会計を待っていると、じぶんが巨大なシステムの歯車の一部分になった気もちになってくる。『メトロポリス』とか『モダンタイムス』とか、あんな感じの映像が脳内に浮かぶ。丸亀製麺は濛々と湯気がたっているし、いよいよ工場っぽい。

耳を塞いでいるイヤホンから聴こえてくる日本大好きMONOCLEの番組は、ロンドンのスタジオで出演者が明治Meltykissをつまみながらしゃべっていた。こちら日本のうどん屋では、いくらのおにぎりの天辺にのったいくらが雪崩を起こした。

夜、ベーコンと小松菜のトマトソースパスタ、ビール。呉茂一『ギリシア神話』(新潮文庫)の上巻を3分の1ほど読む。

Tuesday, December 23

休日の朝。パンケーキを焼き、トマトと紫玉ねぎときゅうりのサラダをつくり、珈琲を淹れる。

最寄りのデパ地下で、ハーブローストチキン、ミートローフのパイ包み焼き、苺のショートケーキを買う。帰りがけに赤ワインを3本購入して、クリスマスの準備が整う。かかってこいクリスマス。備えよう胃もたれ。

スタンダードなクリスマスソングをかけるネットラジオを見つけて小さな音量で部屋に流し、しばしのあいだ読書をする。岡崎乾二郎『ルネサンス 経験の条件』(文藝春秋)を読む。十数年ぶりに再読したその内容は、ほとんど忘れていた。

見えないものではなく、あくまでも見えているところにだけ謎は生じる。

百貨店で買ったものに、ルッコラのバルサミコ酢サラダ、タコときゅうりとパプリカのマリネをつけ加えて、食卓が華やぐ。録音しておいた細野晴臣のラジオ番組「Daisy Holiday!」を聴きつつ昼食&夕食。ラジオは、岡田崇とコシミハルを交えてのクリスマス特集で、クリスマスソングのオンパレード。

Wednesday, December 24

「丸善CHIホールディングスは、完全子会社の丸善書店がジュンク堂書店を吸収合併すると発表した」との報道。「本合併により書店ブランド力の強化を図る」とあるのだけれど、営業利益がマイナスであるジュンク堂を吸収合併するとなれば、ふつうに考えて事業整理的なものがおこなわれる予感がする。

夜、あさりとトマトと水菜のパスタ、タコときゅうりとパプリカのマリネ、ルッコラときゅうりと紫たまねぎのサラダ、白ワイン。『装苑』2月号(文化出版局)を読む。特集は「衣装デザインのインスピレーション」。しかし今年のうちに「2月号」が届くというのが、毎年のことにもかかわらずいまだに慣れない。

Thursday, December 25

夜、グリーンカレー、水菜と紫たまねぎときゅうりとトマトのサラダ、ビール。

日記のための写真メモとしてInstagramを使おうと思い立ち、長らく放置していたアカウントにログインしようとしたらパスワードを忘れた。忘れた場合はこちらから、のリンクに従ってパスワード初期化のメールが届くはずが、待てど暮らせどメールがこない。Instagramの設定を何もかも忘れたので、あたらしくアカウントをつくる。『KINFOLK』っぽい写真をあげている外国の人ばかりをフォローして、タイムラインを『KINFOLK』風に仕上げた。『KINFOLK』っぽい素敵な写真の数々は眺めていて楽しいのは疑いないのだけれど、素敵なライフスタイルを写真で切り取ったというより、写真で切り取るために素敵なライフスタイルを送っているかのような、どこかしら転倒した姿がそこにはある。

Friday, December 26

仕事納めの日は有給休暇を取得。忘年会否定派なので、公私ともに忘年会ゼロ。「公」がゼロなのは私の意思の強さの賜物であり、「私」がゼロなのは人徳のなさのあらわれであろう。来年もゼロを目指す所存である。

複数の図書館から借りている30冊ほどの本の返却期限を確認したり、自宅の本棚にある未読本をチェックしたりしながら、録音しておいた沢木耕太郎のラジオ番組「MIDNIGHT EXPRESS 天涯へ」を聴く。作家とは思えないまとまりのない話が次から次へとくりだされるのが、逆に癖になってきて、最後までしっかり聴いてしまった。

Saturday, December 27

今年最後のギャラリー遊覧日。行程は、まずは恵比寿まで行ってりんかい線で東雲、りんかい線からゆりかもめに乗り換えて竹芝、ゆりかもめで新橋まででたら銀座線で表参道、そこから徒歩で渋谷、というルート。恵比寿のRue Favartで腹拵えののち、スタートを切る。

以下、恵比寿にて。
「Lina Scheynius」(POST/limArt)
早川倫永「Women」(アメリカ橋ギャラリー)
神藏美子「たまきはる 父の死」(ナディッフアパート)
港千尋「ATLAS02:超自然」(G/P gallery)
港千尋の展示は、彼の著作をおおかた読んでいるのでコンテキストがわかるけれど、洞窟壁画、縄文土器、19世紀パリの入院患者の写真がならぶその様子は、事前情報なしに来た人が見たらわけがわからないんじゃないかという気も。

以下、東雲にて。
「YUKA TSURUNO COLLECTION(ホセ・パルラ、カンディダ・ヘーファー)」(YUKA TSURUNO GALLERY)
松川朋奈「真夜中と檸檬と、秘密を少し」(YUKA TSURUNO GALLERY)
横田大輔「VERTIGO + CORPUS」(G/P + g3/ gallery)
松川朋奈の絵画を見ながら、橋爪彩の画集をまだ入手していないことを思い出す。

以下、竹芝にて。
Charlotte Dumas「ANIMA」(gallery916)
シャルロット・デュマによる馬の写真と映像は、最近見た展示のなかで群を抜いてよかった。並んでいた写真集はどれも高価だったので手を出さず。

以下、表参道にて。
「Boutique! ファッションって何?アートと考える、その姿。」(スパイラル)
RAT HOLE GALLERYに行ったらもう年末年始の休廊に入っていた。

渋谷マークシティにあるスペイン料理の店「Bikini TAPA」で、今年最後の夕ごはん散財。

Sunday, December 28

POST/limArtで買ったDarren Almond『The Civil Dawns』(torch press)のページをめくる朝。

『ハンナ・アーレント』(マルガレーテ・フォン・トロッタ監督、2012年)を見た。日本では岩波ホールで公開されて連日満席になるほどの評判を呼んだという話は知っていたが、このたびDVDで見た感想は、よくぞこんな映画的興奮がいちじるしく希薄な作品がヒットしたなあというのが正直なところ。地味だ。本作について言及しているものを読むと、この作品を「映画としてどうか」について語っているものが少ないような印象を受ける。アイヒマン裁判を傍聴した記録を雑誌『ニューヨーカー』にアーレントが寄稿して、大騒動になった経緯を追うその内容は、啓発的なものとしてはそれなりによくできているとは感じたので、「岩波ホールでヒット」という事実はすこぶる正当なことなのかもしれないが。しかし『ハンナ・アーレント』という作品は、観賞後に「考えさせられた」などという凡庸な感想を口に出すだけでは、何の意味もない映画だとは思う。

アーレントの『イェルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告』(大久保和郎/訳、みすず書房)はこのあいだ再読したので、さしあたり『30年代の危機と哲学』(平凡社ライブラリー)所収のハイデガーによるフライブルク大学総長就任演説「ドイツ的大学の自己主張」を読み、つづけて『みすず』2014年7月号所収の三島憲一「ハイデガーの『黒ノート』をめぐって」を読み、ハイデガーのろくでもない人となりを確認する。三島憲一のエッセイにはアーレントについての言及もあって、

話は違うが、50年代後半、本宅の裏に書斎用の家を建てようとしたハイデガーの意を受けて、エルフリーデ(ハイデガーの妻)は、よりによってハンナ・アーレントに、アメリカの古本屋に、『存在と時間』の手書き原稿を売って建設資金を得られないだろうか、と手紙を書いている。アーレントの返事は、マールバッハに相談したら? 国だから買ってくれるわよ、という素っ気ないものだった。これは小生が実際にマールバッハの資料館で読んだふたりのあいだの手紙である。エルフリーデの言い値は残念ながら忘れたが、5万から10万ドルのあいだだったと思う。まああきれる話だ。

と、圧巻のろくでもなさである。

InterFMの「バラカン・ビート」がはじまるまでのあいだ、マイケル・ウォルツァー『解釈としての社会批判』(大川正彦、川本隆史/訳、ちくま学芸文庫)を読む。

夜、タコのトマトソースパスタ、水菜とナッツのサラダ、モッツァレッラチーズとパセリをのせたトマト、ビール。夕食後に、『グランド・ブダペスト・ホテル』(ウェス・アンダーソン監督、2014年)を鑑賞。この監督の映画は、人間の役者がでてきても紙芝居やアニメーションを見ているような感覚になる。

Monday, December 29

大森荘蔵『流れとよどみ 哲学断章』(産業図書)には、ロボットの意見を代弁しながら、哲学上の議論として知られる「他我問題(Problem of Other Mind)」について言及する魅力的な小論がある。

しかし私は断じてでくのぼうでもなく、からくり人形でもありません。修理工が私の体をいじるときには激痛が走ります。だから修理工は私に独特の麻酔法を施すのです。私は気分が高揚するときもあれば気が沈むときもあります。美しい風物には感動しますし、醜い言動には嫌悪をもよおします。食べ物には並の人以上に好き嫌いがありますし、好物の酒に酔って「この人間野郎め!」といった式で座を怒らせたこともあります。私はあなた方よりいくらか上品ですが色情もあり、御婦人方はそれを肌で感じているはずです。つまり、私には「心」があるのです。(「ロボットの申し分」)

コンピュータの最新型OSに恋をする男を描いた『her/世界でひとつの彼女』(スパイク・ジョーンズ監督、2013年)は、近未来を題材にしたSF恋愛映画として楽しめる作品だが、物語は、ここに引用したような「心」の問題を扱っていると見ることもできる。映画のなかで、OSに恋をするという状況に、ある者は理解を示し、ある者は戸惑い、ある者は嫌悪感を示す。人間とOSは物理的にちがう。しかし、人間と人間のあいだと、人間とOSのあいだとで、本当のところいったい何がちがうのか。人間以上にじぶんのことを理解してくれるOSが傍にいるなかで、OSと「心」を通わせれば通わせるほど、差異は曖昧になってくる。もっともこれは、コンピュータとの意思疎通ができるようになった未来において、あらためて浮上する類の問題というわけではない。相手はOSでも動物でも草木でも、そして人間でもおなじことなのだ、というのが「ロボットの申し分」なのである。

そんなことをつらつら考えつつ、この映画でいちばんぐっときたのは、過去の楽しかった日々の情景が走馬灯のように映しだされていっためくるめくショットだ。好きだなあ、ああいうショットの連続。『アニー・ホール』(ウディ・アレン監督、1977年)のラストとか。

朝、ピザトースト、トマトときゅうりのサラダ、珈琲。昼、塩ラーメン(鶏肉とほうれん草と長ねぎと生卵)。夜、camp expressでカレー。

本日の読書は、『夜になっても遊びつづけろ 金井美恵子エッセイ・コレクション1』(平凡社)。どさっと届いた『UP』1月号(東京大学出版会)、『図書』1月号(岩波書店)、『一冊の本』1月号(朝日新聞出版)も併読しつつ。

Tuesday, December 30

年末の買いもので今月の出費が想定をオーバーする。おおいにオーバーする。

『キューティー&ボクサー』(ザカリー・ハインザーリング監督、2013年)をおもしろく見る。篠原有司男の敏捷な動きが、80歳を超えているとは思えず。

朝、トースト、水菜とトマトとナッツのサラダ、珈琲。昼、白米、わかめと大根としめじの味噌汁、牛肉の白ごま炒め、ほうれん草のピリ辛炒め、大根ときゅうりの漬物、ビール。夜、ビーフシチュー、バゲット、赤ワイン。YouTubeにあがっていたレキシのオールナイトニッポンを聴くなど。

Wednesday, December 31

朝、くるみパン、目玉焼き、トマトときゅうりと水菜とナッツのサラダ、珈琲。昼、ハムとピーマンとトマトのパスタ、赤ワイン。

本日の読書は、岡田利規『現在地』(河出書房新社)、本田晃子『天体建築論 レオニドフとソ連邦の紙上建築時代』(東京大学出版会)、『猫、そのほかの動物 金井美恵子エッセイ・コレクション2』(平凡社)、澁澤龍彦『フローラ逍遥』(平凡社)。

今年の元旦に読んだ『フローラ逍遥』を、一年の締めの読書として大晦日に再読する。元旦に読んだのは平凡社ライブラリー、大晦日に読むのは函付き単行本。

澁澤さんは本当に魅力的な人で、時々、本当は馬鹿なのではないか、と思うようなことを言ったりやったりするのだが、なんといっても、とにかく私は澁澤さんを大好きだ。(金井美恵子「澁澤さんのこと」)

夕飯は蕎麦とビールになるだろう。