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Monday, September 8

きのう買った松江泰治の新しい写真集『JP-01 SPK』(赤々舎)をじっくり眺める。まず最初に、池澤夏樹による巻末のテキストを読む。いい文章だ。ナディッフで見つけたとき、帯に、世界を高いところから見ることは祝福なのだ、と書いてあり、とても気になって、全文読みたいと思ったことも購入のきっかけとなった。

この写真を見ながら木を愛でる。シラカバのように見えたのは、もっと標高の高いところに生えるダケカンバだ。北大の植物園の木々はこの本を持って現地に行けば一本ずつ同定もできそう。
こういう視覚的体験をしながらぼくたちは何をやっているのだろう?
話はいきなり古代の日本に飛ぶけれど、『古事記』や『万葉集』の時代には「国見」という儀式ないし行事があった。
春、種まきの季節になると人々は日を決めて集まって近くの山に向かう。おそらくは食べ物や飲み物を携えて行ったことだろう。高いところから自分たちの田や畑を見下ろして、そのさまを讃える。こんなよい土地を持った自分たちは果報者であると喜び、その年の豊作を祈願する。文化人類学では予祝と呼ぶ。
(中略)
見ることは誉めること、高いところから自分たちの土地を見るのは賛美であり祝福なのだ。
そう教えられて初めて、この写真集の隠された意味がわかった。

Friday, September 12

朝、窓から入る風はとても涼しかった。今年の夏は本当に本当に、短かった。あっという間だった。近所のカフェで夕食を済ませて帰ると、ポストに『花椿』(資生堂)10月号が届いていた。今月号はきわめて豪華。巻頭特集が、写真は鈴木理策、テキストはどうやらジョン・ケージの著書からの引用で、モデルは宮沢りえちゃん! 穂村さんとの対談相手は青葉市子で、こちらもなかなか面白かった。就寝前、『花椿』や、『花椿』と一緒に届いたみすず書房のパブリッシャーズ・レビューや、『花椿』とパブリッシャーズ・レビューと一緒に届いた手紙やらカフェでもらったチラシやらメモ帳やらで散らかったテーブルの上を見て、電子書籍、電子媒体と騒がれ尽くしても、決して“紙”はなくならないんだよなあ、と強く思う。

Saturday, September 13

5時前に目が覚め、ラジオをつけ、そのままベッドのなかで6時頃まで聴く。寝室の隣の部屋の窓を開け、風の通りをよくしていたらほんのり寒くて、タオルケットにくるまって7時半までうたた寝した。アッパッパーな薄手のワンピース一枚、タオルケット一枚で眠れる夏をこよなく愛するわたしだけれど、この気楽な格好の季節もそろそろ終わりに近づいているみたいだ。

ここ最近、ちょっと暴飲暴食の感あって、きょうは断食風情な一日にしようと考える。朝ごはんは食べず、ラジオを聴きながらいつもより丁寧に掃除をして、ふと思い立ってアクセサリーの整理もする。しかし処分できるものなんて、十年前に毎日のようにつけていてボロボロに錆びてしまったネックレスや、もうゴムがびろびろに伸びてしまったチャーム付きヘアゴムくらいで、ほとんど無いに等しい。買ったもののやっぱり身につけないなあとかあまり似合わないなあというものは、来年参加する予定のフリマに出すため梱包しておく。それも、たいした量がない。アクセサリー箱の単なる整理に終わった感あり。

蝉の声が聞こえ、水色の空に白い雲、地面には樹木が濃い影を落とし、まだいくらか夏めいている週末。土曜日は朝5時から午後3時まで、聴けるときには必ずJ-waveを聴いていて、この習慣はかれこれ7年目くらいになるだろうか。番組途中に流れるジングルを聴くたび、ラジオを聴き始めてからの4年間、その年月のことを想う。永遠に続くかと思われた日々だった。背景にはいつもあの部屋とあの公園と、J-waveのジングルがあった。

何も食べていないので身体に力が入らない。重い腰をあげて支度をして、昼過ぎに出かける。目黒のうどん屋さんこんぴら茶屋でお昼、卵とじうどん。胃腸の調子が悪いときはうどんかお粥に限るという強迫観念があるのだが、この認識は合っているのだろうか。目黒区美術館にて「ジョージ・ネルソン 建築家、ライター、デザイナー、教育者」を観る。デザインについては何も語ることはないが、とにかく多大なる功績を残したクレバーなデザイナーだということはよくわかった。会場は老若男女で満員、図録は好評につき売り切れだった。会場で流れていた映像はどれもとても面白かった。帰りの電車では眠くなる。

食材の買い物をして帰宅。夜ごはんも抜き。きょうは徹底して胃を休めるのだ、と心に誓ったせいかそれほど空腹が辛くないし、そもそもあまり空腹を感じない。松江泰治『JP-01 SPK』読了。松江泰治の写真は隅から隅まで目が痛くなるほど真剣に見つめるので、全部見終えるまで大変時間がかかる。しかし、その時間のなんと幸福なことよ。夜、23時近くまで窓を開けていたらすっかり寒くなってしまい、なんと長袖を着て寝る。9月半ばに長袖って、ありえん。

Sunday, September 14

5時45分目覚める。とても寒い。タオルケットだけでは薄すぎる、しかし羽毛ぶとんはまだ出したくないので、なんとヒートテックの長袖を着る。9月半ばにヒートテックって、ありえん。ありえんよ。暖かくなって、無事二度寝。

きょうはいい天気、からっとした風も気持ちよい。たまった洗濯物を干す。朝食、ホットケーキ、ヨーグルト、珈琲。今朝の「World Echoes」(InterFM)は秋のAORスペシャルだそうで、素晴らしい。全部聴きたいけど、午前中のうちにクリーニング店とスーパーに行っておかねばならないので、その間は聴くことができない。クリーニング店とスーパーで用を済ませ、お昼の用意。ごはん、しめじとねぎとわかめの味噌汁、秋刀魚の塩焼き、茄子とピーマンの味噌炒め、きゅうりと大根の漬物。その後、粛々と常備菜をこしらえる。雑用を片付け、夕飯のおかずの下ごしらえなどもしていると、あっという間にもう16時だ。洗濯物を取り込み、花屋へ。スプレーバラ4本と変わり種のアイビーの蔓を2本、ミニバラ・カーネーション・トルコ桔梗をあわせたミニブーケ、そして深緑色の花瓶を購入。この1ヶ月で花瓶を3つも買ってしまった。帰ってきてミニブーケを生けたら、なかなか可愛らしくて満足した。そうこうしているうちに18時だ。ゆっくり本が読めず、焦る。しかし、本を読む時間は自分で生み出すしかない。

夜、大根おろし、わかめ、オクラ、長ねぎ、小ねぎをのせたかぼすうどん、焼豚と大根の和風マリネミニトマト添え、ビール。かぼすうどんは大分の美味しいかぼすをいただいたのでつくってみた。いままでつくったことも、食べたこともなかったのだ。キリッと爽やかな酸味がとても美味しい。夕飯を食べながら小川隆夫の「Jazz Conversation」(InterFM)を聴いていたところ、今月いっぱいで番組終了とのアナウンスがあり、がっくり肩を落とす。大好きな番組だったのに。小川さんのブログを見てみたら、番組終わってしまうの寂しいです、のコメントに、始まりがあれば終わりもあるんです、との返信をしていて冷静な対応。しかし小川さん、渋いルックスでカッコいいよなぁ…としばしブログの写真を眺める。