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Tuesday, June 10

グレン・グリーンウォルド『暴露 スノーデンが私に託したファイル』(田口俊樹、濱野大道、武藤陽生/訳)を読んだ。なんとも形容しがたいエドワード・スノーデンの顔写真がちょっとしたホラーを感じさせなくもない表紙のこの本は、購入したわけではなく、間接的なかたちで「ご恵投」いただいたものだ。ご恵投である。仕事から帰ってきて郵便受けをのぞくと、広告の類いはおろか何も入っていないからっぽの状態が通常であるわが家において、頂きものは珍事といっても過言ではない。それにしてもご恵投だ。ご恵投である。いただいておいてなんだが、「ご恵投」という言葉をみると、ニコニコした著者が本をぶん投げてくる姿をイメージしてしまう。本をぶん投げる人。投げるイメージがでてくるのは「投」の字が挿入されてるので当然といえば当然だが、ニコニコという像は「恵」の字がいけない気がする。ニコニコは余計だ。べつにニコニコしなくたっていいだろう。ムッとして本や雑誌を投げとばす状況だってあるはずだ。たとえばこんな感じで。

嘘か本当かは知るよしもないし、たぶん嘘だとは思うが、この書物の中にその名前が少なからずひかれている現代日本のもっともすぐれた小説家は、目次に蓮實重彦の名前が印刷されているのを見ると、その雑誌を即座にくず籠に放りこんでしまうという。たぶんに誇張されたものであろうこの挿話は、しかし、かりにそれが徹底した虚構であったにしても、たまたま目次を目にした場所がくず籠から遠かったりした場合、その小説家が、書斎の空間を横切って雑誌を投げとばすという、ピンチランナー目がけての牽制球を投げる投手のような仕草を想像させるという意味で、運動論的な感動を波及させてくれる。(蓮實重彦『表層批評宣言』筑摩書房)

Wednesday, June 11

羽場久美子『拡大ヨーロッパの挑戦 グローバル・パワーとしてのEU』(中公新書)。読み進めていくなかで、どこかで読んだ本だなと思ったら増補版だった。

Friday, June 13

スウェーデンの群島にある現代美術の展示施設Artipelagに行ってみたいと思って調べたら、ストックホルム市内から観光として巡るのはやや至難の業になるような場所だった。(ここに行くだけで一日つぶれてしまう)

Saturday, June 14

エコノミスト誌を読むと中東の過激派組織「ISIS」についてふれている。このISIS、Wikipediaで確認すると英語圏ではIslamic State of Iraq and Syriaの略とあるけれど、エコノミスト誌ではIslamic State of Iraq and Greater Syriaとあるので、きっちりと確定的な名称ではないようだ。もちろん正確にはアラビア語であって、الدولة الاسلامية في العراق والشامというらしい。読めない。略称はداعشらしいが、こちらも読めない。そもそもキーボードでどう入力すればいいのかもわからないので、いまコピペした。現段階でISISについてわたしが語れることといえば、松岡正剛の編集学校と名前が同じだということくらいだ。

Sunday, June 15

ワールドカップがはじまっていたのだった。ちょうどコートジボワールと日本の試合がある時間帯で、映画をみるために訪れた渋谷は、くすんだ紺色の服を着た人がたくさんいた。JR渋谷駅と京王井の頭線渋谷駅を結ぶ連絡通路、つまりは岡本太郎の壁画《明日の神話》のある通路からスクランブル交差点に目をやると、あふれんばかりの人々がおしくらまんじゅうをしている。あとで調べたら、おしくらまんじゅうではなくハイタッチをしていたとのこと。ハイタッチなんてくだらないものはやめて、おしくらまんじゅうにすればいいのに、と思う。

フットボールの狂騒を抜けて、オーディトリウム渋谷でゲオルギー・ダネリヤ監督『嘆くな!』(1969)をみて、三鷹市美術ギャラリーで「マリー・ローランサン展 〜女の一生〜」をみて、水中書店でジュリアン・グラック『ひとつの町のかたち』(書肆心水)とリリアン・ヘルマン『眠れない時代』(サンリオ)と『lyttoral』を買う。