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Monday, December 2

多木浩二『映像の歴史哲学』(今福龍太編、みすず書房)を読む。今福龍太が札幌大学で主宰した集中講義に多木浩二が招かれ、そこで語られた内容を一冊にまとめたもの。多木浩二の芸術全般への多面的な関心が平明な語り口で展開されていて、とても読みやすい本になっている。多木浩二は自身の来歴についてあまり語らないので、雑事といえば雑事かもしれないけれども、そのあたりの言及もかなりあるので読んでいる側としては興味ぶかい。

私が写真にかかわるきっかけとなった人物がいました。それは、戦前から活動していた写真家と言うべきか、プロデューサーと言うべきか、名取洋之助という人です。名取のことは山口昌男さんが『挫折の昭和史』(岩波書店)のなかに書いていますが、じつは私の方がもっと詳しいのです。

その当時はみんなものすごく貧しかった。特に中平はそうでした。定職があるのは私ぐらいでした。みんなでお金を出しあってつくろうとは言っていながら、結局は誰も出しませんでした。ですから『プロヴォーク』の三冊は私が自分の身銭を切ってつくりました。これは誰も知らないと思います。それは相当に痛かった。けれども、やろうと決めた以上はしかたがありません。当時は私がひとつ部屋をもっていたので、そこにみんながより集まって滅茶苦茶な生活をしていたわけです。こうして『プロヴォーク』ははじまりました。

ベンヤミンについては、ベンヤミン研究者と称するゲルマニストがたくさんいるので、私が彼について何か書くとものすごく嫌がられます。しかし、ベンヤミンが「ベルリンの幼年時代」に書いたような都市ブルジョアジーの生活にもっとも近い生活感覚をもっていたのは、日本では私自身だろうと思っています。私が畳の上で寝るようになるのは戦後になってからならのです。それまでは、日本人としては珍しく、生まれたときからベッドで育っていました。これは私の父親が大正時代に機械技術を学びにイギリスに留学しているような人間だったためです。私の幼い頃の生活はそういうかたちで展開されました。ですから私は、ベンヤミンと非常に近い感受性を幼い頃からもっていたと思っています。

なかなか勝ち気なお爺さんなのだった。

夜、醤油ラーメン(ほうれん草、もやし、ハム、卵、海苔)、ビール。

Tuesday, December 3

ちびちび読んでいた David Thomson, The Big Screen: The Story of the Movies, Farrar, Straus and Giroux を読了。

夜、白米、小松菜と豆腐とわかめの味噌汁、卵焼き、焼鮭、蒸し鶏ときゅうり、キムチ、冷奴、柿、ビール。

Wednesday, December 4

エコノミスト誌を読んでいると、毎週のように出てくる英単語というのがある。たとえばdysfunctionalという形容詞。世界は機能不全で覆われている。

夜、パスタ(鱈、ベーコン、きのこ、ほうれん草)、赤ワイン。

Thursday, December 5

オーディトリウム渋谷で年末年始にゴダールの『映画史』をやるという。年越しゴダール。ところで、ゴダール『映画史』の1Aとか2Bとか3Aとかの区分けって、渋谷の東急ハンズみたいだ。というわけで『映画史』と東急ハンズを比較してみたい。以下、左がゴーダル、右が東急ハンズである。

1A すべての歴史 Toutes les histoires / トラベル&シーズンセレクト
1B ただ一つの歴史 Une histoire seule / パーソナルスタイル
2A 映画だけが Seul le cinéma / パーソナルステーショナリー
2B 命がけの美 Fatale beauté / アニバーサリー
3A 絶対の貨幣 La monnaie de l’absolu / バス・トイレタリー&フィットネス
3B 新たな波 Une vague nouvelle / クリーン&ランドリー
4A 宇宙のコントロール Le contrôle de l’univers / ファニチャー&収納
4B 徴は至る所に Les signes parmi nous / ベッド&枕

夜、中村屋のインドカレー、ビール。

Friday, December 6

『みすず』12月号(みすず書房)を読む。

夜、ピザ、サーモンサラダ、トマトとモッツァレラチーズのジェノバ風サラダ、キッシュ、赤ワイン。ネルソン・マンデラ死去。

Saturday, December 7

昼すぎ有楽町で下車し、ギャラリー遊弋。「池田亮司 systematics」(ギャラリー小柳)、「今城純 walk home indelight」(ポーラミュージアムアネックス)、「トマシェフスキ展 世界を震わす詩学」(ギンザ・グラフィック・ギャラリー)、「森村泰昌展 ベラスケス頌:侍女たちは夜に甦る」(資生堂ギャラリー)、「中川隆司 american suburbia」(銀座ニコンサロン)。

夜、銀座のYEBISU BARにて。焼き枝豆、グリル野菜のバーニャカウダ、牛カルビの鉄板焼き、鶏レバーのスモーク、ジャーマンポテトチーズ焼き、ブラウンマッシュルームのアヒージョ、ビール。

Sunday, December 8

『花椿』1月号(資生堂)、『UP』12月号(東京大学出版会)、柴田元幸『代表質問 16のインタビュー』(朝日文庫)、柴田元幸『翻訳教室』(朝日文庫)、佐藤良明・柴田元幸『佐藤君と柴田君の逆襲!!』(河出書房新社)を読む。

近所で買い物、そしてカフェ。部屋のどこに飾るかを考えないまま花屋でクリスマスリースを注文した。

夜、豚肉、キムチ、卵、ほうれん草、長ねぎをのせたラーメン、ビール。