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Saturday, October 12

午前4時45分起床、窓を開けてラジオをつける。やわらかな空気、風はそれほど冷たくない。6時半頃から風が冷たくなってきて、きょうは夏日だという予報なのに、なぜ。9時、一転してあたたかい風が窓から入ってきて心地よい。実家の犬みたいに、窓のそばの冷たい床の上にごろんと寝転ぶ。

昼前、外苑前に向かう。地下鉄の駅構内を抜け、地上に出るやいなや、目の前のリブロで洋書のワゴンセールをしていて、ふらふらと吸い寄せられるようにのぞいたら、ある写真集がぱっと目にとまった。ジョエル・マイロウィッツの『CAPE LIGHT』(Bulfinch)だった。ちょうど写真集というものを、関心をもって意識的に観るようになってから、つまりわたしが写真に目覚めた頃に出会った一冊の写真集があって、とても昔のことなので、ぼんやりとした印象しか残っておらずなんという写真集だったのか、写真家は誰だったのか、どうしても思い出せず、ずっとずっともどかしく、寂しい思いをしていた。本屋でああ、いいな、と感じる写真集を手にとり、ぱらぱら捲るごとに、ああ、いい写真、でもあの目覚めの時期に観た写真ではないな、まだめぐりあえないのか、とがっかりすることもあった。でもいま、『CAPE LIGHT』をひらいて写真を一枚一枚眺めてみて、確信した。これが探していた写真集だった。

というわけで、嬉しくてたまらない。『CAPE LIGHT』は1970年代後半にケープ・コッドで撮影された海、人々、その周辺の街が被写体で、よくよく眺めてみると、長い間わたしのなかの奥深いところにこの写真たちが眠っていたのかもしれないと思えてならない。たとえばこれらの写真 [1] [2]なんて、無意識のどこかに『CAPE LIGHT』がこびりついていたからこそ撮れたのかもしれない。『CAPE LIGHT』の眼で見ていたのだ。

やっと再会できた写真集を大事にトートバッグの中に入れて、外苑前のワタリウムへ向かう途中の道にオープンしたWORLD BREAKFAST ALLDAYでブンボーサオとペリエの昼食をとる。今月いっぱい、タイの朝ごはんを食べられる。11月・12月はフィンランドの朝ごはんということで、おお、楽しみ楽しみ。

ワタリウム美術館で寺山修司 「ノック」。ここ数年、寺山修司関連の展示はわりと足を運んでいるが、今回の展示は非常に凝ったつくり。2013年に榎本了壱が制作した「寺山修司世界略図」、ほしいなあ。観賞後、近くのスタバで休憩。外国人が多く通るせいもあるけれど、この辺りは、ほんの一瞬、ここが日本だという事実が揺らぐ。ほんの一瞬、異国の風が吹く。

乃木坂に移動し、国立新美術館で「印象派を超えてー点描の画家たちー」、「アメリカン・ポップ・アート」を観る。わたしは点描作品がとても好きだ。もしじぶんが画家だったとしたら、点描技法を極めようとは思わなかっただろうけれど、鑑賞者として作品を観るのはとてもとても楽しい。単純に、ああ、綺麗だなあと思うし、キャンバスに細かくのせられた絵の具が美味しそうだ。その点描技法は科学的な色彩理論に基づいてスーラが開拓し、さらにシニャックが理論化を押し進めたものとされているけれど、今回の展示では単なる技法の発見にとどまらず、技法の発展とともに普及していった分割主義(Divisionism)という理念とは何かということと、そしてスーラとシニャックの試みが西洋のモダンアートが発展していく端緒となった、ということを示していて、それがわかればその後のゴッホ、ベルギーの「20人会」、そして最終展示室を埋めたモンドリアンの作品群がここに集まってきたわけがすんなりと腑に落ち、それはほとんど感動的なほどだ。最後のモンドリアンの部屋、本当に、良かった。ぐっときた。

それにしても分割主義とひとことでいってもいくつかの意味合いを持っていて、体系的に理解するには時間を要しそうだ。ちまちまと勉強してみよう。図録も買ったし。図録は表紙がスーラバージョンとゴッホバージョンの2つからえらべて、ここはもちろんザ・点描技法作品なるほう、つまりゴッホではないほう、をえらびたいのだけれど、あれっ、これってスーラだっけシニャックだっけ、スーラでいいんだよねえ、というプチ・トラップが会計前に仕掛けられていた。正直スーラとシニャックの見分けはあまりつきません。

ミュージアムグッズも楽しかった。いろいろ売られていた。ゴッホ、スーラ、モンドリアンのそれぞれの絵を象徴するような色合いのキャンディがキュートで、ついつい買ってしまう。涼しげな色合いの「スーラ・キャンディ」をえらんだ。

夜は渋谷で焼き鳥を食べ、TSUTAYAでビデオとDVDを数本借りて帰宅。

Sunday, October 13

4時45分起床、窓を開けてラジオをつける。とても冷たい空気が入ってきて、長いこと開け放っていられない。中央線に乗って立川まで。昭和記念公園へ、今が見頃だというコスモスを見に行く。赤とピンクのコスモス畑と、黄色と白のコスモス畑。黄色と白のコスモスが群生する風景は初めて見たかもしれない。コスモスといえば、曼珠沙華の群生地として有名な埼玉県の高麗には、曼珠沙華の陰に隠れてちょっと目立たないけれど広いコスモス畑があって、十年以上前に初めて訪れたのだけれど、そこは素晴らしかった。遠くに見える山並み、水車小屋、そして牧草をはむ可愛い馬たち。でも一昨年だか、久しぶりに行ったときの記憶が不思議なくらい、ない。コスモス畑、どうだっただろうか。昔の印象にかき消されてしまったのだろうか。

  1. 過日 []
  2. 過日II []