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Monday, November 11

映画関連の本をてきとうに選んで読んでいる。David Thomson, The Big Screen: The Story of the Movies, Farrar, Straus and Giroux。さくっとわかる映画史の本で、文体も平易。しかし如何せん長い代物で、600ページ弱もある。分厚い英語のハードカバーを持ち歩く気にはなれなくて、家の中で時間を見つけてはちまちま読んでいる。ちまちま読んでいると、だんだん眠くなってくる。進まない。

夜、明太子としらす干しをのせたごはん、大根とにんじんとかぶとわかめの味噌汁、焼き魚(真鯛)、キャベツと舞茸の炒めもの。テレビの昼のワイドショーでフィリピンを襲った台風の話題はほとんどなく、ひたすら島倉千代子の話で埋め尽くされていたと聞いて驚く。

Tuesday, November 12

フランソワ・トリュフォーが監督した『暗くなるまでこの恋を』(1969年)が、デジタルリマスター版として新宿ピカデリーで上映されることを知る。トリュフォー自身はこの映画について、つぎのようにインタビューで応えている。

『暗くなるまでこの恋を』は、たぶん、わたしの映画のなかで最も批評家に叩かれた作品です。たしかに、この映画は古いメロドラマのパターンを借りているし、構成もしっかりしていなかった。しかし、俳優たちによってきちんと演じられれば感動的な作品になりうると思いました。そして、実際、見事に演じられ、それなりに感動的な作品にはなったと思うのですが、批評はきびしく、さんざんでした。観客にも嫌われました。もしかしたら、きわめて古くさいメロドラマの形をとりながら、何の説明もなく当然ヒロインが愛を感じなくなったりするところが唐突すぎてショックを与えたのかもしれない。男と女がうまくいっているか、うまくいっていないかという、愛の状態や変化を、もっとていねいに描いてみせるべきだったのかもしれない。突然愛を感じたり、セックスをするのがいやになったり、そういったことは人生ではしょっちゅうあることなのに、映画ではそれが真実らしく見えない。観客は映画のなかでは相変わらずある種の真実しかうけいれてくれないのです。(山田宏一『フランソワ・トリュフォー映画読本』平凡社)

トリュフォーははたして、この映画がデジタルリマスターされたのを知ったら喜んだだろうか。

夜、中村屋のレトルトカレー、リボンにんじんのピクルス、かぶの醤油かけ、ビール。ポーランドの独立記念日(11日)に暴動発生。極右集団がロシア大使館を襲撃したとのこと。

Wednesday, November 13

大阪のジュンク堂から東京のジュンク堂を経由して、『ぽかん』3号が自宅の机の上に。雑誌の名付け親である山田稔の文章がよかった。

夜、カレーうどん(鶏肉、ほうれん草、生卵)、ビール。フランシス・ベーコンの「ルシアン・フロイドの三習作」が1億4240万5000ドルで落札される。

Thursday, November 14

少し前だが丹生谷貴志がツイッターに、

そう言えば、澁澤さんもフランス語を全く話せなかったのは有名ですが、多田さんも話せず、ユルスナールが気を使って英語で話したという話があります。これは澁澤さんたちの世代が完全にブッキッシュだったことから来るのでしょう。で、小器用にフランス語話すだけの間抜けよりはむろん素晴らしい・・・

と書いてあるのを読んで、そう言いたい気持ちはよくわかるが、ちょっと微妙な話かもしれない、と思った。「小器用にフランス語話すだけの間抜け」と馬鹿にするけれど、たとえ「小器用」であれ、外国語を話せるようになるには、それなりの努力と訓練を必要とするし、ちゃちゃっとできるようなものではない。読解の知的膂力はじゅうぶんある人たちなのだから、たんに練習すればよかっただけの話だけかと。世代の問題でも、ブッキッシュうんぬんなどという話でもなく、澁澤がそれなりの努力と訓練をしなかっただけだと思う。そしてしなかった理由もわかる。異国の言葉を話せるようになるには、ごく初歩的な文章をなめらかに口にできるようになるまで何度も何度も口にする必要があって、知的刺激が少なくて退屈で地味な作業だから。

夜、ビーフストロガノフ、赤ワイン。

Friday, November 15

エコノミスト誌の発売日。更新されたiPad miniの画面を眺めながら、よくもまあ毎週毎週こんな大量の記事を載せられるなあと今更ながらに感心する。

夜、ケンタッキーフライドチキンとビール。体に悪そうでよい。

デジタルカメラ各社が販売台数を下方修正しているとのニュース。コンパクトカメラが売れないらしく、高性能のカメラ機能を搭載したスマートフォンに市場を浸食されているとのこと。スパイラルでの平出隆と港千尋の対談で、ちょうどその頃発売されたiPhone 5sについて港さんが言及し、あれは電話が売れたのではなく高性能の小型カメラが大量に世の中に出まわったのだと考えたほうがよいという話を思い出した。

Saturday, November 16

午前中髪を切りにいき、昼前に外出する。池袋の古書往来座に前回来たのはいつだったのか思い出せないくらい久しぶりで、こんなに広かったっけと思いながら店内をぐるぐるまわる。良心的な値段設定をいいことにたくさんの本を買ってしまう。池袋西武の大きな無印良品で買い物をする予定が、古本屋で使った金額のほうが高くついたとはどういうことか。

いったん家に戻って、ふたたび外出。新宿で紀伊國屋本店の洋書コーナーをうろつく。洋書売場は一風変わった人がたくさんいておもしろい。チェーホフの原書を取り寄せようとする老女がいたり、『VOUGE』の細かすぎる情報を伝えてバックナンバーを要求する中年女性がいたり、フランス語の本の棚をしげしげと眺める中年男性二人組がいたり。

夜、しめじごはん、ビーフシチュー、豆腐のえのきと舞茸あんかけ、ミニトマトときゅうりとレタスとチーズのサラダ、ビール。

Sunday, November 17

東大本郷の銀杏並木を見物しに行こうと思ったのだが、紅葉の見頃はまだ先のようなので予定変更。家でじっとする。ARTnews の11月号を読んだら、ジャン=ポール・ゴルティエの展覧会についての記事が載っている。ストックホルムに行ったとき、シェップスホルメン島にある美術館でちょうど開催中だったのだが、あいにく休館日で見れなかったのだ。恨めしい話だ。

夕暮れどき、両国に向かいシアターΧで多和田葉子と高瀬アキによる晩秋のカバレット。今回は『魔の山』だというのだが、物語の内容をすっかり忘れているので新潮文庫版をさがしたら引っ越しのときに処分したのを思い出す。図書館で岩波文庫版を借りたが、時間がなくて読んでいる暇がない。要は療養の話だろうというざっくりとした事前情報で公演にのぞむ。テーマは原発で、かなりわかりやすい。多和田葉子の言葉遊びは相変わらずおもしろく、言葉と音の綾取りの見事さには唸るのだが、あまりにわかりやすいところが気になった。

夜、ごはん、長ねぎとわかめの味噌汁、鯵のひらき、キムチ、烏賊の塩辛、ビール。