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Monday, August 20

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ストックホルム – ヘルシンキ – 成田

北欧のホテルの朝食バイキングは本当に楽しかった。もともとバイキング、大好きなのだ。朝食後、すっかり気に入ってしまったテラスで休憩してからホテルを後にする。

ストックホルム中央駅で飛行機のオンラインチェックインができ、発券もここで済ませられる。中央駅からストックホルム・アーランダ国際空港までは列車で20分ほど。スムーズで、とても便利だ。空港に着いたら少し買い物をして(帰りの飛行機では、やはり寝てしまうとあまり気分が良くならないだろうことを予想して、売店でいろいろとお菓子を買い込む。食べて、寝ないようにする)、ラウンジでカールスバーグを飲みながら休憩。ラウンジの奥にはエグゼクティブラウンジへの入口がある。わたしの知らない世界。

定刻どおりに搭乗。今回はフィンエアーのウェブサイトから座席を予約したので、すべて窓際の座席に座ることができた。くり返しになるが、上空からの眺めが旅の楽しみの半分を占めているといっても過言ではないので、窓際席は非常に重要なポイントだ。往路と同じくヘルシンキで乗り継ぎ。ヘルシンキから成田へは約9時間のフライト。“森と湖の国”と称されるフィンランドは上空からもツンツンとがった形の樹木たちが見てとれる。東山魁夷の絵を思い出す。ロシアに向かってフィンランドを西から東へ横断すると、眼下にはまだら模様に数え切れないほどの群島が広がる。この世界に対して、もうどうしようもなくひれ伏したくなる瞬間だ。

機内食はうわさのフィンエアー名物? 蕎麦が出た。あとはスパイシーチキンライス(パプリカのソース添え)、パン、マーガリン、パイナップル、白ワイン、アイスクリーム、珈琲。わたしは甘いものもよく食べるけれど根っからの辛党であるため、この食後のアイスクリームは砂糖・ミルクなしの珈琲をかけて、アフォガード風にしないと甘ったるくてなかなか食べ切れない。

窓の外には白い月がぽかんと浮かび、前方から後方へと次第に移動していく。月光が雲海に映っている。機体の反対側、進行方向左手の窓から見える景色に目をこらすと、朝焼けのようにはるか遠くまで朱色に染まっている。

食事を終えて、皆早々に眠りにつくなか、プリングルスのサワークリーム味をポリポリ食べながら『スペインの宇宙食』(菊地成孔/著、小学館文庫)を読む。この本ではフェティシズムの話題のなかでヘルムート・ニュートンが出てくる。菊地成孔のドライブがかった文章は高度1万メートルの読書に相応しい。『スペインの宇宙食』の後半部分は菊地成孔がさまざまなレストランで食事をしたときのことが日記風に書かれていて、とても面白い。食事は大事だ。家でじぶんでつくって食べる食事も、外で供される食事も。ヨーロッパに行くたびに、現地のカフェ文化をうらやましく思う。大抵のお店で、一日中お酒が飲めて食事もできることを。日本はどうしても昼はカフェ、夜はレストラン形式が多いので、選択肢が少ないことがとても窮屈だ。

少し寝たほうが身体のためにはよいのだろうけれど、うつりゆく外の様子を眺めていると飽きないし、何よりこの状況を楽しみたくて目が冴えてしまう。飛行機の中ではいつもそうだ。でも、そういえば、旅行前から左目の調子が悪く、傷がついているのか、視界がぼやけて見えにくいことがたびたびで、ここで寝ておかないと悪化してしまいそうな不安がある。だからきっと眠ったほうがいい。でもやっぱり眠れないのだ、どうしても。結局、本を読んだり日記メモを書いたりして、成田着まであと約4時間という頃、銀メダルのような丸い月がますます後方に移動し、眼下には薄紫とピンクの大気が帯状に広がるのが見えた。その下には上空から見たフィンランドの群島の輪郭を模したような雲海が広がっている。さらに目をこらすとロシアの大地がうっすら見えた。ほら、やっぱり眠っていたんじゃこの絶景は見られないんだなあ。

夜が明けて、朝食が運ばれてきた。スクランブルエッグにオレンジジュース、珈琲。今回の旅の機内食も美味しく、楽しかった。もうすぐ日本列島が見えてくる。まだまだ行きたいところは山ほどある。次はどこに行こうか。また出発するために、まずは家に帰ろう。