86

Monday, January 14

早朝から窓の外を見やれば強い雨、強い風。午前10時頃、東京は初雪を観測、風はますます強くなって横殴りの雪が降り始めた。どうせいつものように東京は騒ぐほど降らないだろうとたかをくくっていたらあっという間に吹雪になってしまって、きょうは今年初めて、近所のお気に入りのカフェに行くつもりだったけれど、迷いに迷った末断念した。雪は事象としては好きだけれど天候としては本当に嫌いだ。降っている最中はよいのだ。問題は降り積もった後だ。凍結した舗道は滑るし交通機関は乱れるし、とにかく寒いし。しかし雪が解け始める頃、樹々の枝や雨樋から雪解け水がぽたぽた垂れる、あの音ほど甘美な響きをもつものはそうそうないと思われて、それだけは無性に好きだ。

昼過ぎ、突然鈍い音が辺りに響いて、何事だろうかと窓の外をのぞいたら、ベランダから見える巨木の枝が雪の重みに耐えかねて折れて落下した音で、これにはさすがに驚いた。あーもう雪はいいよ、ほんと勘弁、とうんざりしながら佐々木敦『批評時空間』(新潮社)を読み進めた。メカス、吉増剛造、中平卓馬、ワイズマン、ワン・ビン……わたしの関心領域にぐいぐい侵攻してくる内容で、これからもたびたび頁を捲ることになるだろう一冊となった。ほんとは文芸誌連載時にリアルタイムで読もうとしていたのだけど。

夜はベーコンとほうれん草と玉ねぎでミートソーススパゲッティをつくった。

Thursday, January 17

夕ごはんに焼いたハム・油揚げ・小松菜・長ねぎをのせた蕎麦をいただいた後、『旅芸人の記録』(テオ・アンゲロプロス監督、1975年、ギリシャ)前半を観る。

Friday, January 18

朝、『ku:nel』3月号(マガジンハウス)を読む。夜、バゲット、くるみパン、クリームシチュー、グリーンリーフとトマトときゅうりと玉ねぎとコーンのサラダの夕ごはんをいただいた後、『旅芸人の記録』後半を観る。

Saturday, January 19

発話行為というものに興味がある、というか囚われつづけているので、会話、対話、雑談、余談などという言葉を意識してしまうのだけど、今月号の『ku:nel』には津村記久子のインタビューが掲載されていて

皆、雑談がしたいんじゃないかって、私、社会に出てから思ったんですよ。天気とかテレビの話とか、どうでもいい世間話ができるのってすごく大事だと。そんなの時間の無駄やとか、自分探しに有用じゃないと言うのはもったいなくて、誰もがもっと雑談したらいい。くだらない話でもそれって幸せやでと。だから、本まるまる1冊が雑談で、小説を読むことによって、私とじゃなくても本と会話しているような気持ちになれる、そういうことが書ける作家になりたいです。

と言っていたのが目にとまって、へえ、と思った。ちなみに昨年の暮れに読んだ北杜夫の『私はなぜにしてカンヅメに大失敗したか』(実業之日本社文庫)は、著者が雑誌『新潮』に掲載する中編小説を書き上げようとホテルにカンヅメになったものの、ホテルに入るまで、そして入ってからもさまざまな意想外の出来事に見舞われて一向に筆が進まない様子をえんえん書いている私小説とされている作品なのだけど、そのあとがきで坪内祐三が

(著者は)様々なアクシデントやトラブルに巻き込まれる。その「余談」が楽しい。つまり私小説であるよりもこれは余談小説であるが、この種の余談小説を、読者を飽きさせずに描ける(語って行ける)作家は少ない。その点で北杜夫はまったく衰えていない。(p.264-265)

と書いていて、余談小説! 素晴らしい! と拍手したい気分になったのだった。

Sunday, January 20

渋谷マークシティの美登利寿司でお寿司をいただいて身体をまっすぐに伸ばして歩けないくらい胃袋をパンパンにしてからキノハウスの映画一箱古本市をのぞく。タルコフスキー『サクリファイス』の小説版とウディ・アレンの小説集、『夜想』バックナンバー(ヌーヴェル・ヴァーグ特集)、菊地成孔『スペインの宇宙食』をお買い上げした。

Bunkamuraザ・ミュージアムで白隠展を鑑賞したのち、ユーロスペースで待ちに待った「甦る相米慎二|相米慎二監督全作品上映+α」。きょう17:40からかかる『雪の断章 -情熱-』(1985年、日本)の上映を待つユーロスペースのロビーには知った顔がちらほらいらっしゃって嬉しい限り。開場までしばし談笑。その後、『雪の断章』に打ちのめされる。“伝説”の冒頭13分45秒18シーンワンショットを観るために足を運んだといっても過言ではないけれど、実際観てみると、何より音楽の使い方がどうかしていると思えてならない。スクリーンからはひっきりなしに何らかの音がしている。斉藤由貴演じるヒロインは相変わらず歌って踊って跳ねている。相米慎二の音楽の使い方はただ事ではないとあらためて確信した。鑑賞前に、2011年に読んだ本マイベスト3に選んだ『甦る相米慎二』(木村建哉+藤井仁子+中村秀之/編、インスクリプト)の再読を怠ったことを後悔した。この相米特集期間中にまた読み返そう。再読大事。