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Monday, January 7

朝は昨年と同じように、大根とにんじんの紅白なますと黒豆をのせて、せり、長ねぎを入れてつくる自己流七草粥。七草粥はまだまだ改良の余地あり。もう少しさらさらとした仕上りにしたい。Wikiによれば、七草粥を食べる慣習は「祝膳や祝酒で弱った胃を休める為とも言われる」とあるが、これは本当に理にかなっていることよとつくづく思う。

Tuesday, January 8

下北沢のB&Bで、清岡智比古×港千尋トークショー「パリを歩く 記憶の街へ、そして移民街へ」。 清岡智比古が新刊『エキゾチック・パリ案内』(平凡社新書)を出したので、その記念として港さんを迎えるかたち。

「職業柄ついプリントってものを作ってしまうんですよ……」と言いながら参考文献としてパリの地図2種を印刷したプリントを配布し始めた清岡さんの声は、一時期ラジオフランス語講座を聴いていたこともあってなんとなく耳に馴染んでいる。その地図を片手に、築かれては破壊され、をくり返してきたパリの城壁の変遷、そして郊外、移民街について、清岡さんと港さんが撮りためた写真を観ながらの心地よい対談。最後のほうで参考に映画をみんなで観ましょうということになり、18名の監督が撮ったオムニバス映画『パリ、ジュテーム』(2006年、フランス)の一部分を観たのだけれど、そのときいちばん印象に残ったのは、清岡さんと港さんが発した、映画はいいですよね、専門的な知識がなくとも、観ることを楽しみながら世界を知ることができるから、というようなさりげない一言だった。

それは、ルイス・バラガン、ルイス・ブニュエル、フリーダ・カーロといったメキシコの芸術家たちを論じた『メキシコの美の巨星たち』(野谷文昭/編、東京堂出版)のなかで港さんがマヌエル・アルバレス・ブラーボの写真について詳細に解説しており、

写真表現ではあるが、それを超えてイメージの数百年の歴史に連なるような、そういった広がりも持っているように感じる。こういったことをほんの数十分の一秒でできるのが、写真という芸術の特徴だろう。だからこそ写真を「読む」のが面白いのである。残念なことに、このように一枚の写真をゆっくり読んでいくという時間が私たちには日頃あまりないし、特にデジタル化が進んで、いとも簡単に小さなカメラや電話で写真が撮れるようになると、ますます一枚のイメージを大切に読み込んでいくという経験が希薄になってくるのではないかと、私は危惧している。

と書いていて、この場合はメキシコの写真家であるブラーボの写真という特定の一枚についての解説だけれど、本来撮影者や被写体の背景など知らずにただ目の前に置かれた一葉の写真として読み解いていくという行為はたしかに価値のあることだけれどなかなかなされない、という事実に気がついて驚き、港さんがそのように思っていたことを知ってさらに驚いたことを思い出したからであり、きょうの何気ない一言はこの写真について書かれていたこととわずかなりとも重なり合うように思われた。肝心の『エキゾチック・パリ案内』も早く読みたい。

ところでトークショー開始前に清岡さんと港さんがちょっとだけボードレールについて話し始めたため聞き耳を立てていたらすぐに終わってしまって、続きはトークショーで聴けるかしらんと期待していたらそういうわけでもなかった。ちなみに帰宅して清岡智比古さんの年齢を知って驚愕した。もう55歳(1958年生まれ)!! なんてアンチエイジングなフランス語学者なのか。しかも港さんのほうが少し歳下だったとは(1960年生まれ)、これもなんとなく驚き。

Wednesday, January 9

『愛の小さな歴史』『HIROSHIMA 1958』という名著を世に送り出した人のトークを聴いた翌日、バスの振動に身をまかせながら『ヌーベルヴァーグの時代 <紀伊國屋映画叢書 3>』(遠山純生/編、紀伊國屋書店)に収められている、ロメール・ゴダール・リヴェット・ドマルキ・カスト・ヴァルクローズの6人による『ヒロシマ・モナムール(二十四時間の情事)』をめぐる座談会のページを捲っていた。ここでゴダールが『ヒロシマ・モナムール』について「この映画でまず驚くのは、いかなる映画的出典も持たないということです」と言っていて、このくだりを最近どこかで読んだような気がするのだけれど定かではない。有名な発言なのかもしれない。夜はカレーライス、卵とほうれん草のスープ、ビール。

Friday, January 11

大船駅で下車し、鎌倉芸術館で清水靖晃&サキソフォネッツ。わたしは管楽器のなかでいちばん好きなのはサキソフォンかもしれない。アンコールの無伴奏チェロ組曲のなんたるかっこよさ! 高揚感! 素晴らしい夜だった。

Saturday, January 12

自宅シネマ4本立て、『北の橋」(ジャック・リヴェット監督、1981年、フランス)、『キングス&クイーン』(アルノー・デプレシャン監督、2004年、フランス) 、『ヴェルクマイスター・ハーモニー』(タル・ベーラ監督、2000年、ハンガリー/イタリア/ドイツ)、『霧の中の風景』(テオ・アンゲロプロス監督、1988年、ギリシャ/イタリア/フランス)。夜は鮭、昆布、ゆかりのおにぎり3種をにぎって、最後の一本を観ながらもぐもぐ(開始10分くらいで食べ終わっちゃった)。

Sunday, January 13

世田谷美術館まで赴き、すべりこみで松本竣介展。 「今の僕は、人間的汚濁の一切をたたきこんだところから生まれるものを美と言ひたいのだ」の言葉に打たれる。このたびの展覧会の図録には読書家・松本竣介を裏付けるように本人の蔵書目録があって、眺めてるだけで楽しい。所々☆印が付けられていて何だろうと思ったら「線引き、書き込みがある」ものだそう。情報が細かすぎる、と感動する。その後、スパイラルガーデンで「石本藤雄展 布と陶 -冬-」、 表参道ヒルズ スペース オーで「 PHOTOGRAPHY」展。帰宅して夕ごはんは、鮭、鶏肉、昆布の佃煮、小ねぎをのせた蕎麦。