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Saturday, May 12

横浜美術館にて「マックス・エルンスト フィギュア×スケープ」鑑賞。マックス・エルンストはシュルレアリスムを代表する画家のひとりとして広く知られているけれど、今回はシュルレアリスムという枠を取り払い、「フィギュア(像)」と「スケープ(空間表現)」というふたつのモチーフから作品を観ていこうというもの。幾何学に強い関心を抱いていたエルンストは、非常にグラフィカルな造型をもつ絵画を次々に生み出す一方、文字、フォント、タイポグラフィーに対しても意識が向くのは至極当然で、デザイン化された文字とイラストの融合を極めた、つまり現在においても新鮮で優れたタイポグラフィを見ることのできる晩年期の作品『マクシミリアーナ、あるいは天文学の非合法的行使』はそれまでの試みが結実したかたちとなり壮観だった。エルンストといえば森のなかに動物たちがだまし絵のように隠れた絵画しか思い浮かばなかったようなわたしにとっては、ぐっとくる作品はそれほどないものの、学ぶところの多い展覧会だった。

みなとみらい線に乗ってふた駅移動。ドラマチックな雲が空一面を覆う様子をパノラマで見つつ潮の匂いを嗅ぎ取る。林田摂子の写真展がどこかで行なわれていないものかと調べていたときに見つけたお店、チャラン・ポランという冗談みたいな名前のカフェでお昼ごはん。あいにく林田摂子の展示は4月はじめで終了してすでに次の展示が始まっていたが、名残りのように壁には林田摂子の写真が貼られていた。この真っ白い清々した空間に飾られる作品は幸せだろう。しらすと大葉ごはん、豚メンチ、切干大根、かつお時雨煮、木くらげゴーヤほうれん草おひたし、キングサーモン幽庵バターと盛りだくさんのメニューののったおばんざいプレート、味噌汁、ほうじ茶をいただく。箸置きが石で、きれいな石を拾ったら真似したいと思った。味も量も大満足。窓からは象の鼻パークが見渡せるので、夜に来たら港の灯りがきっと綺麗だ。

お腹も満たされ、象の鼻テラスに設置された象の鼻のオブジェと真っ赤なりんごを模したバルーンをよく見ようと象の鼻パークをポレポレ散歩。この作品は鈴木康広によるものだと知ってびっくり。鈴木康広はとても心惹かれるアーティストだ。『まばたきとはばたき』(青幻舎)を読もう読もうと思いつつ読んでいないけれど(本屋やミュージアムショップでは毎回眺めている)。

もっと海のそばにいたかったけれどスケジュールが立て込んでおり、秒単位で行動しているためさっさと切り上げJRでヒューンと東京に戻ってきて、原美術館にて「杉本博司 ハダカから被服へ」。展覧会のカタログを見たら杉本博司のプロフィールが今回の展示内容にひっかけたものでたいそう面白かった。すなわち「1948年東京御徒町にて裸で生まれる。小学生低学年時代、母親のおもちゃとして着せ替え人形のように注文服を着せられる。自宅筋向かいの勝沼洋装店で仕立てる。……」。

先日、J-waveのスポット番組「VISION」でカレル・チャペックの旅行記が取り上げられるのを聴いて、そういえばちくま文庫から出ているカレル・チャペック旅行記コレクションは1冊目の『イギリスだより』と2冊目の『チェコスロヴァキアめぐり』を刊行当時に買ったけれど、あとはどうしたんだっけ、新しいのは出たんだっけ、だとしたらなんで買っていないんだっけ、とにわかに気になり始めたところで、これら以外にも出ていたらこの際コンプリートしようと密かに思っていたところで、美術館の帰りにエキュート品川に入っている書店WALL PAPERに立ち寄ったらとっくの昔に『スペイン旅行記』『北欧の旅』『オランダ絵画』が出ていて、しかもその3冊だけがきっちり棚に収まっていたため無事にミッションを果たした。じぶんの本棚にコレクションがそろうのは美しい眺めで喜ばしい。

夜はチャラン・ポランのしらすと大葉ごはんがとても美味しかったので、鮭と大葉の炊き込みごはんをつくった。すぐ影響される。ほかに、長ねぎの味噌汁、鰺の開き、玉ねぎステーキ、ほうれん草のおひたし、烏賊の塩辛、漬物、ビール。食後のおともに林田摂子『森をさがす』(ROCKET BOOKS)。

Sunday, May 13

人混みが大嫌いなのだけれど、タイ料理をこのうえなく好んでいるため、朝食抜きで代々木公園のタイフードフェスティバルに足を運ぶ。この世でいちばん好きな食べ物がタイカレー(いちばん辛い? グリーンカレー)であるのに、昨年は“自粛”の名のもとに(この期日、この場所で催すのは)中止となったため今年が初参戦だった。鉄則は「10時に来て、10時から食べる」と聞いていたので10時に到着。人は多いけれどまだそれほど並ばなくて済んだ。タイフェスは立ったまま猛々しく、あるいは会場をそぞろ歩きながらゆったりと食べるのがふさわしいのだろうが、今年はまだピクニックをしていなかったので芝生のうえにラグを敷いてのんびりいただいた。ビールは2匹のゾウが可愛いチャンビールと、日本でもよく飲まれるシンハービール。日差しが強くてみるみる暑い。暑さを避けようと木陰に移動すると寒い。5月はツンデレな季節。しかし公園の木立の美しさには息をのむ。

人混みが大嫌いなのだけれど、陶を扱う作家、青木克世の作品を鑑賞する行為はこのうえない幸福だと認識しているため、オープン間もない渋谷のヒカリエに足を踏み入れる。とはいえ、まあ、毎日の通勤電車の混雑ぶりに比してみれば、タイフェスにしろヒカリエにしろ、その場所に集う人々の楽しげな表情はいいものじゃないか、と突然なにやら殊勝な気持ちになったりもしつつ、8階のギャラリースペースに到着。8/ CUBEにて「透明な混沌 Crystal Chaos」、8/ ART GALLERYにてダミアン・ハースト「New Spot Prints」を観る。目当ての青木克世は「透明な混沌 Crystal Chaos」で観られる。釉薬により白化した陶磁に施された過剰な装飾はまさに超絶技巧としか言いようがないもので、「予知夢」シリーズと名付けられた真っ白なスカル(髑髏)、紫がかったピンク色の絵付けと組み合わされた作品(「MANIERA」や「Trolldom」といったシリーズがあるようだが、今回は何だったか不明)、馬の脚を想起させる「Labylinth」など、陶芸のもつ一般的なイメージから乖離した独特の作品群はその空間まで変容させるようで、この商業主義満開の施設にこうしたギャラリーが設けられる意味を思う。

青木克世との初めての出会いは2010年の「MOTアニュアル2010:装飾」(東京都現代美術館)だったけれど、このときわたしは非常に「装飾」というテーマに興味をもっていて、今でも引き続きもってはいるのだけれどこのときがいちばんで、ホールで行なわれた鶴岡真弓の講演もわくわくしながら聞いたし、青木克世以外にも小川敦生、横内賢太郎、塩保朋子、野老朝雄、黒田潔、水田寛、森淳一、山本基、松本尚が出展しておりそのうち森淳一、山本基、小川敦生、塩保朋子はとりわけ記憶に残っていて、塩保朋子の「Cutting Insights」には先日、表参道のエスパス ルイ・ヴィトン 東京で行なわれた「Cosmic Travelers—未知への旅」で再会を果たしたことを記録しておこう。

ぐったり疲れたのでハーゲンダッツのアイスクリームを買って帰宅。常備菜を拵え、冷蔵庫をぱんぱんに満たしてから夜はかんたんにグリーンカレー、ビール。一部アメリカの介入を許しつつ(ハーゲンダッツ)、意地でもタイフード漬けで終わらせたかった一日。