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Wednesday, October 19

『美しい教会を旅して』(KIKI、中央公論新社)を読む。KIKIが国内外を旅してまわった教会ガイド的フォトエッセイ。家のかたちをした墓碑が集まった墓地がアラスカにあることを知った。

アラスカのエクルートナという村に「Sprit House — 魂の家」と呼ばれる墓地がある教会があります。名前の通り、その墓碑は家のかたちをしています。人が覆われる程度の大きさで、なかには小さなものもあり、若くして亡くなった人の墓だとわかります。家の装飾はさまざまで、シンプルなものもあれば、ドールハウスのように豪華なものまであり、故人の生前の暮らしぶりがうかがえるようです。青と銀、赤と白などの組み合わせは一族を現すもの。また、すべての墓に、ロシア正教のシンボルである3本の横棒が入る八端十字架が飾られています。

アラスカがアメリカ合衆国によって買われる以前、ここはロシアでした。でもそれより前に、アサバスカン・インディアンが古くから住む土地でもあります。ロシア正教会の宣教師はそれまでの文化を強制的に押しやることはなかったといいます。そうして、アメリカ・インディアンの埋葬のかたちにロシア正教の精神が加わり、現在の墓のかたちになったのでしょう。

KIKIの撮る写真は好きだ。前に新宿のコニカミノルタプラザでKIKIの個展が開かれたとき、この本にも載っているマリアさまの写真がポストカードになったので、長いことキッチンの壁に貼っていた。

夜、フランソワ・トリュフォー『私のように美しい娘』(1972年、フランス)。ヌーヴェル・ヴァーグのヒーローといえばジャン=ポール・ベルモンドでありジャン=クロード・ブリアリであり、ヒロインといえばアンナ・カリーナでありベルナデット・ラフォンでもあるから、歳を重ねたベルナデット・ラフォンとジャン=クロード・ブリアリの姿を見ることのできるクロード・ミレール『なまいきシャルロット』(1985年、フランス)はシャルロットのポニーテールを楽しむだけの映画じゃないなあとつくづく思う、とともにわたしは一生こんなようなことばかり言って過ごすのかなあとも思う。

*今日の一枚  A Tribute To Daryl Hall And John Oates/The Bird & The Bee

Friday, October 21

数年前までは、家ではハードカバー、外出時は文庫本、眠りにつく前はじぶん所有の本の再読、と決めていたのだけど、もはやそのように棲み分ける余地もなくなってきて、とりあえず読みはじめたものは四の五の言わずに読み終える! というルールをじぶんに課してはいるものの、勤務先が家から近いうえ行き帰りにわずかな時間乗る電車はほぼいつも満員で、読めたとしても往復でものの5分ほど、自宅では雑事にかまけていると結局読書する時間は早朝か深夜しか残されず、じぶんがそれほど睡眠時間を必要としないタイプでよかったとしみじみ思われ、時に、外出時に携帯する本は(内容がじゃなくて重量が)軽くて読みやすい『一冊の本』、『みすず』、『UP』、あとポプラ社の『百年文庫』でほぼ固めてしまってもいいのではないかと思案を重ねる秋の朝。

『百年文庫 72 蕾』(心臓/小川国夫、蟹/龍胆寺雄、乙女の告白/プルースト、ポプラ社)を読む。どちらかというと短編より中編・長篇を好むわたしだけど百年文庫は大好きで、それは19〜20世紀の文学が読んでいていちばんしっくりくるせいか。

*今日の音楽  PASSPORT/Emi Meyer

Saturday, October 22

開館と同時に東京国立近代美術館にて、すべりこみでようやく「イケムラレイコ うつりゆくもの」を鑑賞。この頃、美術展を観ると、感想を言葉にするよりもまずじぶんのなかでのさまざまな疑問点を整理する行為にこそエネルギーが費やされている。続けて「レオ・ルビンファイン 傷ついた街」も観て、渋谷へ移動。可愛い子やぎのいるカフェでお昼ごはん。久しぶりにアップルストアに足を運びそのにぎわいっぷりに感心して、いまだについ“旧ユーロスペース”と呼んでしまうシアターN渋谷でエミール・クストリッツァ『アンダーグラウンド』(1995年、フランス/ドイツ/ハンガリー)を観る。「許そう、でも忘れないぞ」。わすれられない。

『百年文庫 85 紅』(帰郷/若杉鳥子、三十三の死/素木しづ、残醜点々/大田洋子、ポプラ社)。

Sunday, October 23

今日も今日とて朝一番で「アール・デコの館 — 東京都庭園美術館建物公開展」へ。庭園美術館に行くたびに大好きな浴室と書庫を眺めるけれど、開館前に長蛇の列をつくった来館者たちによりどの部屋を観るにもあふれんばかりの混雑で、特別公開期間がいちばん落ち着いて観られないという現実。かつて、はじめて公開展を鑑賞したときは各部屋の灯りを撮り集めて“照明コレクション”をつくった。今日も結局は、壁紙の模様とか暖炉のラジエーターカバーとかレリーフなどの細部に目がいってしまう。とはいえ公開時のみ足を踏み入れることのできるウィンター・ガーデンにはいつまでもとどまっていたいし、展示物と素晴らしい融和を見せるこの空間のなかでこれまでの展覧会に思いをはせるとしばらくの休館ということの寂しさがじわじわと襲ってくる。

美術館のそばに一軒家を改造したという素敵なレストランを発見、お昼をいただく。窓の外にイイギリの赤い実が揺れていた。

帰宅してから買いもの。最近足しげく通っている花屋さんでスプレーバラの「サラ」購入。やわらかなクリーム色をしている。帰ってきて花瓶にいけたらかなりの存在感で、ささやかながら気持ちが盛り上がった。
夕ごはんを済ませてフランソワ・トリュフォー『柔らかい肌』(1964年、フランス)を。カトリーヌ・ドヌーヴよりもフランソワーズ・ドルレアックのほうが断然好きである。

今週はちょっと疲れました。来週はがんばります!

*今日の一枚  リフレクション/畠山美由紀