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Friday, August 19

『拡張するファッション アート、ガーリー、D.I.Y.、ZINE……』(林央子、ブルース・インターアクションズ)読了。90年代から00年代、10代〜20代と『花椿』『STUDIO VOICE』で彼女のテキストを読んできたわたしもまた林央子チルドレンのひとりです。『幼なごころ』(ヴァレリー・ラルボー、岩崎力訳、岩波文庫)読了。ジョイスの技法にいち早く注目し、実生活でも援助を惜しまず、『ユリシーズ』の仏語訳を手がけたという偉大な功績を残しながら「小さな作家」と形容されてしまうラルボー。解説はおなじみ堀江敏幸で、同時代の批評家クゥルツィウスの、ラルボーの文学の土台はユマニスムにある、という論説を引き合いに出しながらラルボーのユマニスムが内包する独特の「軽さ」について語っており相変わらず面白いのだけれど、訳者岩崎力のあとがきは同小説が生まれる背景から各編についての丁寧な読解をつうじて「ラルボー独特の言語感覚」「女名前の官能的魅力」「収録作品同士の響きあい」などについて解き明かしており、これがやたらと面白かった。優れた解説はまるで推理小説を読んでいるようなスリリングな面白さがあり、訳者解説でこれほど興奮したのは17世紀メキシコの詩人であり修道女であったソル・フアナの『知への賛歌 修道女ファナの手紙』(光文社古典新訳文庫)の訳者、旦敬介の解説以来だろうか。

*今日の一枚  dreaming pupa/pupa

Saturday, August 20

アテネ・フランセ文化センターでジャック・ロジエのヴァカンス『メーヌ・オセアン』(ジャック・ロジエ、1985年、フランス)を観る。じぶんのツイッターをさかのぼるとどうやらわたしは2010年8月20日に下高井戸シネマでやはり『メーヌ・オセアン』を観ていたようで、いま手元に下高井戸シネマの昨年夏のタイムテーブルがないのでその日付を正確なものとしてよいかわからないけれど、そんなことより、こういう、人生におけるちょっとした偶然の煌めきとか個人的な高揚とか歓喜とか興奮をもたらしてくれるもののひとつがジャック・ロジェの映画であることのほうが紛れもない事実なのだった。

*今日の一枚  Tide/Luciana Souza

Sunday, August 21

東京都現代美術館で「名和晃平ーシンセシス」を観る。小学校時代、プールの授業中に雨が降り出し、水面で雨の雫が跳ねるとき、飛沫がダイヤのかたちをつくったこと。庭の大きな葉のうえでは、水滴は綺麗な球体を保ったままころころころころ転がったこと。石鹸やシャンプーの泡が風船状に膨らんだところをのぞき込むと、七色に発光しながらその表面がものすごいスピードで流動していたこと。水に絵具を溶かしてぐるぐる撹拌し、そこに和紙をしずかに置いて取りあげると水面の絵具の模様がそのまま和紙に転写されたこと。そうした子ども時代のリリカルな記憶が、情報社会のメタファーとしてビーズや発泡ポリウレタンやシリコーンオイルなどの工業用素材を扱う名和晃平の甘やかな抒情から遠くはなれた“界面の彫刻”に接続された。

小雨降るなか、バスに乗って東京駅まで。oazoの丸善で一年に一度のお楽しみ、『オチビサン 4巻』(安野モヨコ、朝日新聞出版)を買う。

『福島原発の闇 原発下請け労働者の現実』(堀江邦夫文、水木しげる絵)読了。

ずっと雨が降っていた。雨に降られない体質のはずなのに、何度も何度も傘をさしたりとじたりした一日。

*今日の一枚  April In Paris/Count Basie & His Orchestra