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Monday, February 25

月曜日に有給休暇を取得、という甘美な言葉の響きに包まれた朝の食卓は、ベーコンとほうれん草を交ぜたスクランブルエッグと、トーストにバター、ヨーグルトに蜂蜜を用意して、手挽きした珈琲豆をケメックスに整えてゆっくりとお湯をそそぐ。

ホームページを確認するとまだPRE-ORDERの表示があらわれる『KINFOLK』がアマゾンの段ボール箱で届いたのは昨日のこと。早速ページをめくれば、美しい写真とともに、小気味よくユーモアに富んだインタビューやエッセーが添えられた、素晴らしい雑誌。『KINFOLK』を読んでいるとピクニックに出掛けたくなるのだが、窓の外は寒風が吹きつけている。春までは、まだ少し先。

白米に辛子明太子、長ねぎと万能ねぎの味噌汁、鰺の塩焼き、ベーコンとほうれん草の中華風炒め、豆腐にキムチをのせて、昼食の用意ができたところで添えるべき飲みものは麦酒以外は考えにくいメニューと相成ったが、ぐっとこらえてほうじ茶を湯呑みに。

午後は、銀座七丁目角の資生堂で手に入れた『花椿』を読みながらうだうだと部屋ですごし、夜、ラーメンと麦酒の晩ごはんを済ます。

Tuesday, February 26

夕食のタラコパスタと一緒にグラスに注いだのはボルドーの赤ワイン。余程の安ワインでないかぎり、どれでも美味しく飲めてしまう経済合理的な舌をもつという僥倖。夜、エットーレ・スコラが監督したイタリア映画『あんなに愛しあったのに』(1974年)を観る。

Wednesday, February 27

郵便受けに『装苑』(文化出版局)が届けば、それは月末の報せ。白米、辛子明太子、しめじと玉ねぎの味噌汁、鰺のひらき、冷奴、麦酒の夕餉。

Thursday, February 28

夜、白米にごま塩をふりかけ、玉ねぎのスープに小松菜とパプリカとしめじのオリーブソテー、豚肉のガーリック炒め、グリーンサラダと蒸し人参を添えた晩ごはん。赤ワインを飲む。

Friday, March 1

東京は午前4時44分、ロンドンは午後7時44分。「死人番号」を並べた目覚ましのアラームで起床する金曜日の朝は、パソコンを起動してエコノミスト誌が更新されているのを確認することからはじまる。

夜、白米に韓国海苔、紫キャベツと長ねぎの味噌汁、焼き魚(ホッケ)、卵焼き、キムチ、もやしのナムル、蒸し人参、麦酒。

Saturday, March 2

Alice Kaplan, Dreaming in French: The Paris Years of Jacqueline Bouvier Kennedy, Susan Sontag, and Angela Davis。国立新美術館に向かう千代田線の車内で読み終える。スーザン・ソンタグの本を探すのが目的でアマゾンを彷徨っていたら見つけた一冊で、キンドル版もあったけれど装幀が良さそうだったのでハードカバーを購入。本書に登場するのは副題にあるとおり、ジャクリーン・ケネディ、スーザン・ソンタグ、アンジェラ・デイヴィスという三人の女性たち。彼女たちはそれぞれ、若い頃にパリでの生活を送っている。のちのケネディ夫人は40年代末に令嬢として、ソンタグは50年代の後半にユダヤ系の知識人として、アンジェラは60年代前半に黒人活動家として、それぞれパリにいた。出自も時代背景も異なり、間接的にしか関係はなかったと思われる三人の女性の姿をとおして浮かんでくるのは、当時のフランス(とアメリカをめぐる)の政治的、文化的、思想的な状況。彼女たちのパリ体験から見えてくるものを著した書物は、彼女たちの手短な評伝にもなっている。

乃木坂に到着し、大きな企画展の狭間にあるからかだいぶ閑散とした国立新美術館で「アーティスト・ファイル2013」を見物。観賞後、こちらもわりと空いていた3階にあるレストラン、ブラッスリーで仔羊のブレゼ、きのこと野菜のフリカッセ、デザートにクリームブリュレと珈琲。クレームブリュレを食べると、パリのモンマルトルのカフェで、充分すぎる量の夕食を平らげて、もう何も食べられない満腹状態のところで、ウェイターがやってきて何やら言ってきたので適当に首肯いていたらデザートのメニューを持ってこられたのを思い出さずにはいられない。あのとき、やむなくクリームブリュレを注文したのだった。

食後、オオタファインアーツ、ワコウ・ワークス・オブ・アート、ゼンフォトギャラリーをめぐる。尾仲浩二の展示で写真集を購入。ギャラリーの人が出払っていたので、その場にいた写真家本人に代金を支払う。
森美術館で会田誠の展覧会を観賞後、六本木ヒルズの1階にあるドイツビールの店に行こうと思った矢先、展望台を歩いていたらチェコの国旗が飾られてチェコビール祭りの様相を呈していたので、ドイツからチェコに鞍替えして、チェコビールのベルナルドとポテトとソーセージ。

ほろ酔い電車移動で渋谷に向かい、ポスターハリスギャラリーで寺山修司の直筆原稿と著作の展示。

帰り道にツタヤでDVDとVHSをレンタル。VHS片手に棚を眺めていたら、若い男女が「VHS? 久しぶりに聞いたわーその言葉」とか会話してる。悪いがこちらは毎週のようにVHSだ。

Sunday, March 3

パン、コーンスープ、ヨーグルトの朝食ののち、停滞気味のホームページの更新作業に精を出す。昼ごはんは、白米、ごま昆布、茄子と玉ねぎの味噌汁、鰺の丸焼き、レモン、キムチ、小松菜のおひたし、玉子焼き、ビール。午後は、近所のカフェで『図書』(岩波書店)と『一冊の本』(朝日新聞出版)を読む。「お年寄りのゲートボールや「一日一善」といった「好ましいこと」の裏側を探る作品」を作る会田は「偽善的かなと思うことが一般の人より多いのかもしれない」と慎ましいカマトトぶりで発言しているのだが、こうした発言は、「ごめんなさい」と謝りの言葉を「天才」の下につける、ゆるく才気走ってひねった調子の個展タイトルと同じに、見る者を白けさせる陳腐な駄目押しというものだろう」と書く金井美恵子。