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Tuesday, January 1

年末放送分のゴンチチのラジオ番組を流しながら、熱燗と御節で新年を迎える。

去年を振り返ってみれば堀江敏幸の呪縛から逃れられなかった一年であった気がしてならず、年が変わり堀江敏幸包囲網の桎梏から脱すべく決意を新たにするも、うっかり元旦から『余りの風』(みすず書房)と『目ざめて腕時計をみると』(TOKYO CULTUART by BEAMS)に目を通してしまう。本年の読書傾向もまた堀江前線が活発になる予報。前者は批評的散文、後者は写真集だが、二冊を導きの糸として、本棚からシモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』(ちくま学芸文庫)、須賀敦子『ユルスナールの靴』(河出文庫)、ヴァレリー・ラルボー『幼ごころ』(岩波文庫)、島尾敏雄『夢のかげを求めて 東欧紀行』(河出書房新社)を抜き取って机上に四冊を並べてみる。未読の『幼ごころ』と『夢のかげを求めて』に手をのばすのが、さしあたり一年の計。

元旦シネマは『モード・イン・フランス』(ウィリアム・クライン監督)と『スリ』(ロベール・ブレッソン監督)の二本立て。

Wednesday, January 2

正月二日目に東京都写真美術館を訪れるようになって今年で三年目。入場無料の本日、受付で抽選プレゼントつきの「おめでとう写美クイズ」の紙を渡され、正月開館を何で知りましたか? とのアンケート。写美ホームページ、新聞広告、駅のポスターと並ぶなか、「その他」を力強く丸で囲み、「ニァイズ」と記入しておいた。その場で抽選の結果、鉛筆が当たる。

「この世界とわたしのどこか 日本の新進作家vol.11」展はすべて女性の写真家で占められており、図録を読むと企画したのが笠原美智子だとわかって納得。しばらく前から気になっていた笹岡啓子の作品をまとめて見ることができてよかった。菊地智子の中国のドラッグ・クィーンをテーマにした写真群は、以前に一度どこかで見たはずだがどこで見たかが思い出せず。どこで見たのだろう。

電車内での移動中に読んでいたのは岩波書店の広報誌『図書』。鹿島茂と吉川一義によるプルーストをめぐる対談がおもしろい。鹿島さん曰く、

固有名詞は相当に警戒して翻訳しないと、躓くことが多い。逆に、全然自分が理解できない言語でも、翻訳を読んでいてこれは誤訳しているなと思う箇所が時々ある。それはたいてい固有名詞でわかってしまう。

ほー。

ところで今年の神社での絵馬鑑賞、具体的な内容はまったく記されていないが、「今月中にすべてが解決しますように」と読む者に切迫した緊張感を与える絵馬が印象に残る。

Thursday, January 3

林檎の皮を剥き、珈琲を淹れ、ソファの横に詩集を積み上げる。図書館からどどっと借り出した思潮社の現代詩文庫。詩にいくらかでも触れておくための現代詩文庫の渉猟であったが、後ろのほうに載っている詩人論や作品論ばかりに目がいってしまい、じぶんがつくづく散文の人間であることを確認する結果と相成った。

正月三日目シネマは、『イタリア旅行』『不安』『ドイツ零年』のロッセリーニ三本立て。

Friday, January 4

新年会の待ち合わせ場所として指定されたのは新宿東口のヨドバシカメラ前だったが、集合する顔ぶれを思うと、全員が歩いてすぐの紀伊國屋書店に立ち寄ってしまう可能性も捨て切れず、ヨドバシカメラの前だと言っているのにうっかり紀伊國屋書店に全員が揃ってしまうという奇跡の到来をいくばくか期待したが、みんなちゃんとヨドバシカメラの前にいた。

ほぼ完成したと言ってよい安倍晋三のモノマネを披露し、このモノマネは割と似ていると評判がよいのだが、実のところ、安倍晋三が前回首相だった頃に松村邦洋がさかんにやっていたモノマネを参考にしただけで、テレビが家にないのもあって最近の安倍晋三の動きは一度も見たことがない、というのは内緒だ。

Saturday, January 5

三菱一号館美術館で「シャルダン展 静寂の巨匠」展。経歴を追うと「成り上がり人生」のように見えなくもないシャルダンの絵画を堪能し、カタログを参照しながら、文献として『プルーストと絵画 レンブラント受容からエルスチール創造へ』(吉川一義/著、岩波書店)や『フランス絵画の「近代」 シャルダンからマネまで』(鈴木杜幾子/著、講談社選書メチエ)などをメモしておく。現存する唯一の花の静物画「カーネーションの花瓶」がよかった。デルフト製の陶器に活けられた、白と赤のカーネーション、月下香、スイートピー、クロッカス、ユリ……。ところで、シャルダンは残っている作品数が少ないらしく、かなりゆとりのある展示。しかし、最後の部屋が物販コーナーで埋まっているとは意想外。丸の内オアゾの小松庵総本家で鴨南蛮、丸善を軽く流して、自宅に戻ってから『無防備都市』(ロベルト・ロッセリーニ監督)を鑑賞。

Sunday, January 6

書名から、なんとなく木村敏と似た匂いを嗅ぎとって、『身体の時間 〈今〉を生きるための精神病理学』(筑摩書房)と『解離する生命』(みすず書房)という野間俊一の本を二冊読み始めたのだが、あとがきを確認したら著者は木村敏の弟子だった。どうりで。木村敏ほどの「難解さ」はなく、DSMの方法論に抗って精神病理学を模索する著者の手捌きは明晰で、わかりやすいけれど、もう少しわかりにくくてもいいのではないかと思ったり。

正月休み最後の映画は、『銀河』(ルイス・ブニュエル監督)と『罪と罰』(アキ・カウリスマキ監督)の二本立て。