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Monday, March 19

『装幀のなかの絵』(有山達也/著、港の人)を読んでいたら、彼がアートディレクションをやっている雑誌『クウネル』(マガジンハウス)について書いている。初代の編集長・岡戸絹枝のエピソードとして、

ある号でのこと、海外にいるライターの原稿にどうしても納得できず、3日間、毎夜、朝方まで国際電話で(電話代いくらだ?)、お互いが納得できるまで喧嘩しながらやりとりを行ったという。原稿に対しては特に厳しかったようだ。何度も原稿を突っ返された、と関わった人たちからよく聞かされた。編集長であるからあたりまえと言えばあたりまえだが、それを書き手ひとりひとりに対してどこまでやりきるかが、本の質を大きく変えていくのである。
あとから編集部に入ってきたふたりの編集者も、最初は相当泣かされたようだ。新人でもないのに企画も原稿内容も何をやってもダメ出しの連続で、身体を壊すくらいのストレスを抱えたこともあったという。
(pp.107-108)

とある。ほっこり系雑誌の制作現場はぜんぜんほっこりしてない。夜、白米、大根の味噌汁、人参のナムル、ほうれん草のおひたし、焼き鮭、かぼちゃの煮物、胡瓜のピクルス、ビール。

Tuesday, March 20

大学生のころ編集者という職業に憧れて就職活動では出版社をいくつか受験したが軒並み撃沈した。面接までいって落ちたのもあるが、筆記試験の段階で門前払いになったものもある。マガジンハウスが後者で、私にジャニーズのアイドルについて出題するほうがまちがっている。ところでいまは編集者という職業への憧れは、あまりない。

Wednesday, March 21

有給休暇の水曜日は銀座遊覧。土日祝日が定休日のためにずっと訪れる機会を逸していたマガジンハウスの裏にあるcafe634で昼ごはん。「入江早耶展」(資生堂ギャラリー)、「ロトチェンコ 彗星のごとく、ロシア・アヴァンギャルドの寵児」(ギンザ・グラフィック・ギャラリー)、「写真家大石一男 パリコレ30年」(松屋銀座)、「ヘレン・ファン・ミーネ/Dogs and Girls」(ギャラリー小柳)、「佐々木忍/白磁十二支大名行列」「鉄川与助の教会建築/五島列島を訪ねて」「平子雄一/庭先メモリーズ 見えない森」(LIXILギャラリー)いう流れでギャラリーめぐり。資生堂ギャラリーでアート・ディレクターに澁谷克彦を迎えた新装版の『花椿』を入手したり。gggでロトチェンコの矢印好きにひたりながらカタログを購入したり。ヘレン・ファン・ミーネの写真を前回観たのは二〇〇六年のトーキョーワンダーサイト渋谷だったと記憶を辿ってみたり。INAXギャラリーがLIXILギャラリーへと名称変更がなされたことを入口で知ったものの当分のあいだは「かつてINAXギャラリーだったところ」というぞんざいな呼称で私は把握するであろうことを予想したり。夜、温かいうどん。柚子と大根おろし、万能ねぎ、きざみ海苔、焼いた豚肉をのせて。ビール。

Thursday, March 22

『震災と原発 国家の過ち 文学で読み解く「3・11」』(外岡秀俊/著、朝日新書)にはアルベール・カミュの『ペスト』の話がでてくる。あるテレビ番組で辺見庸が『ペスト』のなかの「ペストと戦う唯一の方法は、誠実さということです」と登場人物が語る場面を引用していたことにふれながら。そういえば『日本経済復活まで 大震災からの実感と提言』(竹森俊平/著、中央公論新社)でも震災直後に著者が『ペスト』を貪り読むくだりがあって、カミュの『ペスト』が危機的な状況下において示唆に富む内容をふくんだ文学作品であることが窺い知れる。が、むかし古本屋で買った新潮文庫の『ペスト』は自宅本棚の奥に未読のまま眠りつづけていることは内緒だ。夜、「パリの雪」というラベルの貼られたスパークリングワインをあける。

Friday, March 23

『文化系のためのヒップホップ入門』(長谷川町蔵+大和田俊之/著、アルテスパブリッシング)は、どうして私がヒップホップにまるで関心がないかの理由付けをしてくれるような本だった。ヒップホップは少年ジャンプでプロレスでお笑いなのだというきわめて明快な解説に唸ると同時に、そうした「バトルもの」にまるで興味の惹かれない身としては「入門」と銘打たれた本に逆らうような読後感を味わう。生涯ヒップホップの門を叩くことのないまま終わってしまうかもしれない。夜、白米、ねぎの味噌汁、めぬけの煮つけ、かぼちゃ煮と蒸し人参、小松菜のおひたし、ビール。無印良品で買った正方形の小鉢が重宝する。

Saturday, March 24

曇天模様。目黒区美術館で「メグロアドレス 都会に生きる作家」を鑑賞。天候が悪く開館直後に訪れたとはいえ係員より鑑賞者のほうが少ない。東京国立近代美術館に移動して「ジャクソン・ポロック 生誕100周年展」。あわせてことによってはメインの企画展より刺激的な内容をやっていることでおなじみの常設展と一緒に鑑賞できる二階の展示へ。やっていたのは「原弘と東京国立近代美術館 デザインワークを通して見えてくるもの」。美術館併設のレストランが潰れてしまったので(評判はあまりよろしくなかった店だったけど)このあたりで鑑賞後に休む場所がなくて困りつつ、竹橋駅ちかくのプロントでジャクソン・ポロックさんの生涯と作品について討議。渋谷に移動しツタヤでDVDとビデオを本当にこんなに観れるのかと不安をおぼえるレベルの大量レンタル。夜、寿司とビール。

Sunday, March 25

勝手にオタール・イオセリアーニ映画祭。『月曜日に乾杯!』(2002年、フランス・イタリア)と『ここに幸あり』(2006年、フランス)。夕方に買いものを済ませたのち、『駅馬車』の宣伝担当になったものの同時期に公開された『美の祭典』がヒットするなかで『駅馬車』を周知させるのがいかに大変だったかというじぶんの苦労話をずっと語りつづける冒頭の淀川長治の解説がおもしろすぎる『美の祭典』(レニ・リーフェンシュタール監督、1938年、ドイツ)をDVDで。夜、柚子と大根おろしと万能ネギの温かいうどん、中華風もやしスープ、冷奴、小松菜のおひたし、キムチ、ビール。