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Monday, February 6

Googleトップページのロゴがフランソワ・トリュフォー。毎度著名人の誕生日を教えてくれる林家・グーグル・ペー。通勤電車で『UP』二月号(東京大学出版会)をめくったところ巻頭にあるのは青木淳一「ナチュラルヒストリーの誘惑」で、執筆者の名前をどこかで見たような気がして記憶をたどってゆけば『ホソカタムシの誘惑 日本産ホソカタムシ全種の図説』(東海大学出版会)を書いた人だった。夕餉は玉葱と人参を入れたビーフカレー。夜、『あこがれ』(フランソワ・トリュフォー監督、1958年、フランス)を鑑賞。

Tuesday, February 7

『臨床医学の誕生』(ミシェル・フーコー/著、神谷美恵子/訳、みすず書房)を読む。みすずのシリーズ《始まりの本》から。斎藤環の解説つきで。夜ごはん、白米、梅干し、もやしの味噌汁、万能葱と冷や奴、鰺の塩焼き、大根おろし、麦酒。

Wednesday, February 8

『要約 ケインズ 雇用と利子とお金の一般理論』(山形浩生/訳、飯田泰之/解説、ポット出版)を読む。山形浩生の訳によるケインズ一般理論。例によって山形浩生の訳者あとがきがもう本文を読まなくてもよいのではないかと思ってしまうほどの明快さ全開なのだが、とはいえちゃんと訳文を確認したほうがいいとも例によって思うのは山形浩生の翻訳は読みやすいけれどけっしてわかりやすいわけではないからで、ケインズがわかりやすい言いかたをしていないのだから当然といえば当然なのだけれど、山形浩生の解説は読者になんとなくわかったような「錯覚」を与えてしまう。いいんだか悪いんだか。山形浩生が「わかった」というレベルと、読者が「わかった」というレベルはまったくちがうという、これまたあたりまえの事実にたどりつく。夕食、焼き鰤と葱をのせた温かいうどん、蒸し南瓜。

Thursday, February 9

すでに書店に並んでいるという情報をつかみながらも、定期購読している月刊『みすず』(みすず書房)の一・二月号、つまるところ読書アンケート特集の号が自宅の郵便受けを確認してもいまだ届いておらず、これは一体どういうことなのかとムッとする数日をすごし、高価なみすず書房の本を身銭を切らず図書館で借りてばかりの私の態度に対するあてつけだろうかと邪推したところで、本日会社帰りに郵便受けをのぞいてみれば、やっと届いていたのだった。夜の食卓、白米、葱の味噌汁、鰹節と冷や奴、鰺のひらき、大根おろし、麦酒。

Friday, February 10

『脱原発「異論」』(市田良彦+王寺賢太+小泉義之+絓秀実+長原豊/著、作品社)のなかで小泉義之が震災後における中井久夫の軍隊マニア的な「統制」の言説に疑義を呈していたが、それはそれとして『みすず』読書アンケートに寄せた中井久夫の回答を読むと相変わらずの海軍好きが炸裂しており、挙げている本が『[証言録]海軍反省会』(戸高一成/編、PHP研究所)と『帝国海軍の最後』(原為一/著、河出書房新社)で、いったいなんのアンケートだろうかこれは。夜ごはん、牛肉と人参と玉葱を入れたクリームシチュー、バタール、赤ワイン。

Saturday, February 11

東京駅で下車。「ルドンとその周辺 夢見る世紀末」展(三菱一号館美術館)を賞玩したのち、丸の内ブリックスクエアのA16でピザとワイン。

徒歩で銀座に向かう途中、東京国際フォーラムに十代から二十代前半を主とする女性たちの長い長い行列がつづいていて、いったい何事だろうと不思議に思っていたらすぐそばに「歯科口腔保健の推進に関する法律成立記念シンポジウム 生きる力を支える歯科 医療の実現に向けて」というパネルを手にもった男性の姿があり、これほどたくさんの十代二十代女性が行列をつくるほど「生きる力を支える歯科」にただならぬ関心が払われているとは歯科医療の将来もあかるいと希望に満ち満ちた状況だ。当日、ジャニーズ事務所に所属する者たちによるコンサートが実施されていたという説もある。

銀座。ギャラリー小柳に向かってみたもののなんと休廊。きょうは土曜日であると同時に祝日、というなんとも損した気分。ちちをかえせ ははをかえせ こくみんのしゅくじつをかえせ。しかたなくそそくさと退散して小柳ビルの裏口から外に出ようとすると、ちょうどギャラリーに行きそうな雰囲気をまとった妙齢の女性とすれちがって、ここはひとつ「きょうお休みですよ」と一声かけるのが親切心というものかもしれないが、もしかしたら彼女の目的地はハツコエンドウである可能性もなくはないわけで、これからきらびやかなウエディングドレスなりを考えようとしている者に対してギャラリーの開廊状況をお伝えしたところでなんになるという話で、いや、しかし、もっとも、すれちがったその人はアート関係の冊子を手に携えていたけれど、というかそもそも目的地がハツコエンドウであればビルの裏口から入ることはあるまい。

「梶野彰一/Baby Alone」(ポーラ・ミュージアム・アネックス)、「エリオット・アーウィット/エリオット アーウィットが見つめたパリ」(シャネル・ネクサス・ホール)、「山口晃/望郷 TOKIORE(I)MIX」(メゾンエルメス)を遊覧ののち銀座を離れて恵比寿へ。「Barry Kornbluh」(リムアート)に立ち寄る。リムアートが古書店からギャラリーに変わったのを知ったのは今年に入ってからだが、あのたくさんの高価な本たちはどこへいったのだろう? Rue Favartで軽く休憩。夜、東京都写真美術館で恵比寿映画祭。『スリープレス・ナイツ・ストーリーズ 眠れぬ夜の物語』(ジョナス・メカス監督、2011年、アメリカ)を観る。

Sunday, February 12

『ジョルジョ・モランディ』(岡田温司/監修、フォイル)。豊田市美術館と鳥取県立博物館と神奈川県立近代美術館での開催を予定していたものの、原発事故により中止に追い込まれた幻のモランディ展カタログ。

モランディは、無意識のうちに、そしてじつはじゅうぶんに醒めた意識をもって、複数の事物の関係性に、「あいだ」の磁力に、鋭い眼を届かせていたのである。今後、どんな時代のどんな状況においても、彼の作品の強度が失われることはないだろう。そして、モランディの絵画は、集団のなかの孤独の本当の意味を、示唆しつづけてくれるだろう。(p.145)

という一節は、登場しそうな場所には必ず現われそしてやっぱり本書でも登場した堀江敏幸の「日々の散積貯蔵倉庫 モランディをめぐる断想」から。午後、八百屋、魚屋、ドラッグストア、花屋で買いもの、そしてふたたび読書タイム。『成熟社会の経済学 長期不況をどう克服するのか』(小野善康/著、岩波新書)。「経済の専門家でない読者にも十分わかっていただけるように、解説をできるだけ平易に書くことを心がけました」と著者は序文に書くのだけれど、経済学を平易な言葉で書くと往々にしてどこか深刻さを欠いた暢気な記述に陥るきらいがあるので、できれば避けたほうがよいのではないかといつも思うのだが。

夕食にカレーをつくる。夜も更けて『真珠湾を語る 歴史・記憶・教育』(矢口祐人+中山京子+森茂岳雄/編、東京大学出版会)を手にとったのは戸谷由麻の論考を読みたくて。