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Monday, March 5

社会民主党(SPD)の党員投票でキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)との連立賛成が決まり、ドイツにおける政治的空白はいちおうの決着をみる。しかしアンゲラ・メルケルのかつての威光は完全に霞んでしまった。連邦議会選挙前のおおかたの予想に反して、「メルケル以後」はずっと早まりそうな雰囲気に。

曇りのち雨。帰宅時の電車内は生暖かい空気と雨の匂いが充満している。駅から自宅までの徒歩は暴風雨のような風と雨が降りつけ、ずぶ濡れになる。不快。

先週からずっと戦前モードなので、保田與重郎『近代の終焉』(新学社)を再読中。新学社が刊行するぜんぶで32冊ある「保田與重郎文庫」のうち、唯一所有している一冊。つぎのくだりが印象にのこる。

我國の文化と智識の植民地文化性を代表する本尊は、大學であるが、ヂヤーナリズムとしては岩波ヂヤーナリズムである。電車の中で脚を組んで、岩波新書などいふ雑書を膝の上においてゐる若い女事務員に、精神的訓練を痛打せぬ限り、日本文化を毒してゐる自由主義といつたことの百萬遍となへても所詮仕方ないのである。(「文化運動について」)

精神的訓練を痛打!

つづけて石原莞爾『最終戦争論・戦争史大観』(中公文庫)を読もうと本棚を探すも、行方不明。

夕刊を読むと、中国の張業遂報道官が記者会見で、鉄鋼とアルミニウムを対象とするアメリカの輸入制限発動に対して、「経済や貿易の摩擦を処理する正しい方法は、お互いに市場を開放するやり方だ」と経済的保護主義を批判している。中国がアメリカに対して経済的自由主義の優位性を説く時代が来るとは。もっとも中国が自由貿易の有効性を諭すなんてずいぶんな茶番ではあるが。

Tuesday, March 6

三寒四温。きのうの暖かさに反して、外の空気は冷んやり。

イタリア総選挙の結果は、右も左も過半数をとれずに宙ぶらりんの状態に。極右政党の「同盟」とポピュリズム政党「五つ星運動」の動向が注目されているが、そもそも「ポピュリズム政党」ってなんだという話で、いつからポピュリズムがキャッチコピーとして流通しているのかと不思議に思う。というか、中道右派陣営のなかでシルヴィオ・ベルルスコーニがいまだに強い影響力を有しているってどうなっているのかイタリアは。選挙の敗北をうけて、マッテオ・レンツィは民主党の党首を辞任した。

イマヌエル・カント『純粋理性批判』(原佑/訳、平凡社ライブラリー)の中巻を読む。

Wednesday, March 7

なんらかの有害物質の摂取が原因でロシアの元情報機関員とその娘が意識不明状態というニュース。

スギ花粉が飛散している。昨秋よりシダトレン(スギ花粉舌下液)を服用しているのだが、花粉症の症状はでているので効果のほどはまだなんとも。症状として頭痛がひどいのであわせてロキソニンを処方してもらう。

本日の読書は、読みさしの『純粋理性批判』の中巻、および下巻を最後まで。

夜、自宅シネマ。『失われた週末』(ビリー・ワイルダー監督、1945年)を見る。アルコール依存症がテーマの映画をビールを飲みながら見る。

Thursday, March 8

石野裕子『物語 フィンランドの歴史 北欧先進国「バルト海の乙女」の800年』(中公新書)を読む。著者の名前に見おぼえがあると思ったら『「大フィンランド」思想の誕生と変遷 叙事詩カレワラと知識人』(岩波書店)を書いた人だった。

フィンランドが好きでたまならいという感情はついぞ生まれることなく、フィンランド史研究を続けてきた。ムーミンがどうしても好きになれない自分を軽く呪ったこともあったが、そのような「客観的」なスタンスがかえって研究の役に立っていると感じている。もちろん、好きな「フィンランド」はたくさんあるが、それは主にフィンランドで関わった人びとと共有する時間とフィンランドの歴史である。
私の専門は広くいうと国際関係学に立脚したフィンランド史である。研究対象時期は主に19〜20世紀であり、最近は1920〜30年代の戦間期に焦点を当て、「大フィンランド」という近親民族思想から発展していった膨張思想と文化の関係を研究している。
本書で記したように、スウェーデン、ロシアによる統治を経て、フィンランドは1917年にようやく独立する。独立以降も、「大フィンランド」という膨張思想に多くのフィンランド人が共鳴していくが、それはなぜだったのかという問いに取り組んでいる。

Friday, March 9

曇りときどき雨。『UP』3月号(東京大学出版会)を持参して外出。

山手線の有楽町駅下車。銀座ウエストで休憩してから、ルミネで買いもの。ルミネカード10%オフ期間中の土日は辟易する混みっぷりをみせるルミネだが、平日の昼間は空いていた。入口で「ルミネカードはお持ちでしょうか?」と躍起になって宣伝活動をおこなっていたが、脳内で「お持ち」が「お餅」に変換されて、それがあたまから離れない。「ルミネカードはお餅でしょうか?」「ルミネカードはきなこでしょうか?醤油でしょうか?」

TOMORROWLANDとBEAUTY&YOUTH UNITED ARROWSでシャツを買う。

夕方、早めの夕食をAUX BACCHANALESにて。鴨コンフィ、フライドポテト、ニース風サラダ、ギネス、赤ワイン。

ドナルド・トランプが金正恩と会談する意向だという。これまで罵りあってきた両者だが、実際のところは気が合いそうではある。両者とも「めっちゃ笑顔」が得意芸だし。

財務省近畿財務局の職員が自殺。佐川宣寿が国税庁長官を辞任。これぞ醜聞という展開。

Saturday, March 10

曇り。バスで砧公園へ。世田谷美術館で開催中の「ボストン美術館 パリジェンヌ展 時代を映す女性たち」を見る。

用賀から渋谷経由で新宿へ。激混みのルミネ新宿で洋服以外のものを買う。IDÉEでバブーシュを、中川政七商店で弁当包み用のハンカチを買う。

道中の読書は、大江健三郎『万延元年のフットボール』(講談社文芸文庫)。

Sunday, March 11

晴れ。終日自宅にて。

読書。ジョゼフ・チャプスキ『収容所のプルースト』(岩津航/訳、共和国)と堀江敏幸『坂を見あげて』(中央公論新社)を読む。『坂を見あげて』の装画が気になって描いたのは誰かを確認したら、堀江栞とある。インターネット上の断片的な情報をつなぎ合わせると、堀江敏幸の娘らしい。娘の名前に「栞」と名づけるのは、いかにも堀江敏幸という感じである。

夜、『パターソン』(ジム・ジャームッシュ監督、2016年)を見る。テーマや内容はとてもよいので、主人公の妻をあんな不思議ちゃんにしないで、永瀬正敏も登場させないで、もっとさらっと流して90分で終わる映画だったらずっと素晴らしかったのに、と思う。ブルドッグは名演だった。