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Monday, December 25

クリスマス。晴れ。昨夜遅くの雨が舗道を濡らしている。
妻が実家から三島由紀夫の文庫本を20冊ほど運んできたのでそれらを読んでいる。これまで三島由紀夫の文学上の業績にはさしたる関心がなく、そのむかし『金閣寺』くらいは読んだもののふーんくらいしか思わず、先週『金閣寺』を再読してみたもののやはりふーんくらいしか感想は浮かばなかったのだが、冷戦下の産物のような小説『美しい星』(新潮文庫)を読み始めたらなかなかおもしろい。一家全員が宇宙人(だとそれぞれが思っている)の物語が三島の端整な文体で紡がれる。なんでもかんでも陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地での三島事件と重ねるのはあまりに底の浅い聯想かとは思うが、一家の長である主人公の取り憑かれたような独演を読んでいると孤高の演説をする三島の姿が浮かんでくる。
会社の帰り道は冷たい北風が吹いて寒い。二夜連続のローストチキンから逃れて夕食は焼き魚の和食。
夜、注文しておいたレコードが届く。「Elis Regina In London」「Judee Sill」「A Charlie Brown Christmas」の三枚。

Tuesday, December 26

先々週買った淡い黄色のスプレーバラがいまだ花を咲かせている。
日本経済新聞が塩野七生へのインタビュー記事を載せている。みんな好きだけれどそのよさをさっぱり理解できない二大作家といえば司馬遼太郎と塩野七生なのだが(べつに悪くはないけれどもこぞって礼賛するほどか? という意味で)、以前に塩野七生のようにはイタリアを書きたくないと若桑みどりが語っていたと四方田犬彦が書いていて、若桑みどりのいいたいことはわかる気がする。
夜、会社の忘年会で疲弊。チェーン系居酒屋の宴会料理の、料理としてのレベルの低さにめまいがする。
三島由紀夫『美しい星』(新潮文庫)を読了。この小説のよくわからないのは三島がSF的な物語設定をどれほど「本気」で書いているのかで、つぎのくだりなどはほとんどギャグにしか思えない。

「どうしてそんなことを御存知なの」
暁子は今まで一度も洩らさなかったその秘密を、母が知っているのにおどろいた。しかし伊余子は、娘の疑いを外らすために、逸早く逆手を用いた。
「木星人にはそれくらいのことはわかるのよ」

Wikipediaにある本作の説明によれば、三島はドナルド・キーンに何度も英訳を依頼したが、キーンは本作に否定的で断ったらしい。ドナルド・キーンが好きじゃなさそうな小説ではある。

Wednesday, December 27

会社の昼休みに三島由紀夫『盗賊』(新潮文庫)を読む。三島由紀夫の書いた最初の長編小説。
帰り道、風が冷たくて寒い。スーパーで買いもの。売っているものが正月モードに切り替わっていた。夕飯は鱈と白菜の鍋にする。
鶴岡真弓『ケルト 再生の思想 ハロウィンからの生命循環』(ちくま新書)を読む。

Thursday, December 28

快晴。最終出勤日、を無視して有給休暇を取得。洗濯、アイロンがけ、靴磨き、植物の世話。
午後、読みさしだった『MONOCLE』を読みながらレコードを聴く。ここ最近、音楽はもっぱらレコードで楽しんでいる。数をもっているわけではないので、おなじものを何度も繰り返し聴く。レコードはよい。「音のいい部屋 A ROOM WITH SOUND」と題された『Casa BRUTUS』(マガジンハウス)の特別編集号で村上春樹がつぎのように話している。

レコードを聴く理由は音がいいからです。聴き比べると完全にわかりますよ。そして新しいアナログよりも、古い昔に出たものの方が音はいい。オリジナルの音源がアナログのものはたいていの場合CDよりアナログの方がいい。これは僕が徹底的に聴き比べて得た結論です。

この特集に登場する各人のオーディオ設備にくらべれば、わが家のターンテーブルは入門機だしスピーカーもアンプ内蔵の安いものだが、村上春樹のいっていることはよくわかる。彼の発言で特にそのとおりだと思うのは「新しいアナログよりも、古い昔に出たものの方が音はいい」という箇所で、テクノロジーの進化って一体なんなのだろうという感じである。貧弱な音響装置でもそう思うのだから立派な設備を揃えたらもっとそう思うだろう。もっとも深みに嵌まって大変なことになりそうなのでオーディオの魔界には踏み入れないように自制しているが。
12月10日放送の「Barakan Beat」のなかで、ピーター・バラカンがジェイ・Zの運営する音楽ストリーミングサービス「TIDAL」について、知り合いのオーディオ関係者の意見も含め、ものによってはアナログレコードの音質と変わらないくらい素晴らしいという話をしていた。それほどアナログは音がいいという話であり、翻ってCDがいまいちだということを暗に示唆している。CDってなんだったんだろうという議論がでてくるのは時間の問題かもしれない。

Friday, December 29

晴れ。陽射しが眩しい。スプレーバラが枯れたのでアランセラを花瓶に活ける。
銀座へ。今年最後の外食は三笠会館のTrattoria Mezzaninoで。イタリア料理と赤ワインのランチ。
BARNEYS NEW YORKとUNITED ARROWSのセールを見てまわったり(何も買わず)、AKOMEYA TOKYOで瓶ビール向けの小さなグラスを買ったり。有楽町から東京駅まで歩く。
東京駅地下の玩具やグッズの店が並ぶところを歩いたら子供だらけで大混雑している。クリスマスが終わったのになぜこんなに人が群がっているのか。お年玉の前借りか。ところで、子供文化に詳しくないので表参道にあるキデイランドはサザエボンのようなキティちゃんのバッタもんを売っている店かと想像したがちがうと指摘される。
丸善に立ち寄る。大橋由香『staub ストウブで無水調理』(誠文堂新光社)を買う。
中央線快速で東京駅から新宿駅に移動。正月に見る映画を探そうとひさかたぶりに新宿のTSUTAYAを訪れたら、DVDのレンタルは歌舞伎町の店舗に移ったという。歌舞伎町の狭い雑居ビルでDVDを選ぶ。
ルミネ新宿の212 KITCHEN STOREでストウブを買う。途端に荷物が重くなった。
三島由紀夫についての言及を拾おうと『近代日本の批評II 昭和篇(下)』(柄谷行人/編、講談社文芸文庫)を読む。浅田彰、柄谷行人、蓮實重彦、三浦雅士による共同討議。みんな口が悪い。三島の話題に関連していいだももの人を小馬鹿にするような文体が槍玉にあがっているが、こんな感じの悪い座談をやる人たちにいわれたくはないだろう。

Saturday, December 30

晴れ。近所のスーパーで正月向けの食材を調達する。今年最後の買いもの。
ゴンチチのラジオ特番を聴きながら坂野潤治『帝国と立憲 日中戦争はなぜ防げなかったのか』(筑摩書房)を読む。
夜、昨日買ったストウブを早速使って鱈のアクアパッツァをつくる。料理が食材や腕前に左右されるのはもちろんだが調理器具を変えるだけで味が変わることもあって、蒸籠、スキレットにつづき今回ストウブで劇的な変化を体験する。簡単においしくできるのでストウブが流行る理由が今更ながらわかった。
録音しておいた「沢木耕太郎 MIDNIGHT EXPRESS 天涯へ」を聴きながらの夕食。赤ワインを一本空ける。

Sunday, December 31

大晦日。曇り。午前中、本棚の整理をしていたら窓の外に雪が舞う。図録と写真集の棚卸し。
ずっとInterFMを流しっぱなしの年の暮れ。夕食は蕎麦と日本酒。