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Monday, June 5

三谷太一郎『日本の近代とは何であったか 問題史的考察』(岩波新書)を読了。ひさかたぶりの重量級の岩波新書。

日本経済新聞の夕刊に掲載されている多和田葉子のエッセイに、つぎのようなことが書いてあった。

散歩中によく見かけるアムゼルという可愛い野鳥がいる。羽根が真っ黒で嘴は黄色い。この鳥の日本語名は椋鳥だと長いこと思い込んでいたが先日、ベルリンをテーマにした「百年の散歩」という本を出した際、ゲラの段階で、椋鳥がぴょんぴょん跳ねる場面に校正から「椋鳥は決して跳ねません」という鉛筆が入った。調べてみると、アムゼルは椋鳥ではなく、ツギミの一種で、日本語ではクロウタドリと呼ばれることがわかった。それにしても校正のプロは、跳ねる鳥と跳ねない鳥がいて、跳ねない鳥は絶対に跳ねないということまで知っているのだから守備範囲が広い。

『百年の散歩』の版元は新潮社。新潮校閲部のエピソードがまたひとつ増えた。

Tuesday, June 6

『みすず』(みすず書房)と『UP』(東京大学出版会)が届く。『UP』をひらくと、山口晃が余白だらけだった前号の「すゞしろ日記」にふれて、「朝の詩情と薄れゆく意識を余白の美しさや奔放な線にのせて表してみた」と卓抜な強弁を披露しながら、読者の感想を知ろうとエゴサーチしているさまが描かれている。twitterなどを検索したのであろう結果、でてきたのは「過去最大級の手抜きっぷり」という文言。なにやら既視感のある文言だなと思って振り返ってみれば、これはわたしがtwitterに書いたものだった。山口晃に引用されるとは光栄な話である。

Wednesday, June 7

田原桂一の訃報を知る。

佐藤オオキがラジオでしゃべる自虐ネタ全開のトークが気になって、彼の著作『脱力デザイン論』(小学館)を読んでみたら、文章においても自虐ネタ全開だった。ほとんどどうでもいい話のオンパレードだが、ドラえもんの道具とデザインの親和性について書いている最後のくだりに感心する。

実はドラえもんのポケットから出てくる「ひみつ道具」のデザイン的価値はスゴいんじゃないか、と今でも思うわけです。最も重要なこととして、問題を必ず「解決する」プロダクトであることです。結果的に解決できないことも多いですが……少なくとも「解決しようとする」スタンスこそが秀逸なデザインの大前提と言えます。よく見ると機能は至ってシンプルなもので、そのフォルムは機能と明確にリンクしている「わかりやすいカタチ」であるため、取扱説明書がなくても、たとえ「出来の悪い」のび太でさえいきなり使いこなせてしまうユーザービリティーです。
しかも、工業デザインが陥りがちな過剰な先進性や機能性を誇示するデザインではなく、親しみやすさのあるインターフェイスに仕上がっているのです。さらに特筆すべきこととして、それが「完璧ではない」ことです。この不完全性があるからこそ、ドラマが起きるキッカケとなるのです。ひとつのプロダクトの登場によって世の中や人間関係が変わる、つまり、モノからコトが生まれているのです。まさにデザインの本質なのです。

Thursday, June 8

イランのテヘランでテロ。

会社の昼休みの時間に、読みさしだった今井宏平『トルコ現代史 オスマン帝国崩壊からエルドアンの時代まで』(中公新書)を読み終える。

今月の『みすず』(みすず書房)に掲載されている山内一也「ウイルスとともに生きる」を読んでいて、さすがアメリカ人はちがうなと思ったのは、なかなか死滅しないノロウイルスについて調査するために、つぎのような人体実験をおこなっているのを知ったから。

ノロウイルスが外界で長期間生存することを示す実験が、2012年に米国ワイオミングの子供のキャンプ場で行われた。井戸水に一定量のノロウイルスを加え、1日、4日、14日、21日、27日、61日に志願者に飲んでもらったのである。ウイルスが生きていることを確かめるには、普通は、試験官内で培養した細胞に接種すればよい。重い下痢を起こす人体実験を行った理由は、ノロウイルスが感染する培養細胞が見つかっていないためである。ノロウイルスに感染する実験動物も見つかっていない。
この実験の結果、すべての実験で志願者全員が発病し、ウイルスが少なくとも2ヶ月は井戸水の中で生きていることが明らかになった。それ以上、人体実験を続けることはできなかったため、保管していた水の中のウイルスRNAの量が測定された。すると1年後でもRNAの量はほとんど変わらず、1266日(3年半近く)後でもわずかな減少が見られたにすぎなかった。おそらく、ウイルスは生きていたと推測される。

結果から見れば全員がノロウイルスに感染したのだが、1日目の井戸水を飲む意味がわからない。感染するに決まっている。それが科学の実験というものなのだろうか。志願者に金銭提供があったのかボランティアなのか不明だが(ボランティアだったらすごい)、61日目の井戸水であれば、ひょっとしたらじぶんは感染しないかもしれないという期待ももてるというものだが、1日目では絶望的である。率先して重い下痢を志願しているようなもので、アメリカンな話である。

Friday, June 9

不本意ながら強制的な圧力に屈して参加せざるをえない状況を除いて会社の飲み会は片っ端から不参加を決め込んでおり、本日もまた欠席することと相成ったのだが、そもそもきょうはイギリスの選挙の結果が気になるので飲み会などに行っている暇はない。

Saturday, July 10

夏のような日差し。代々木上原のPATHで昼ごはんを食べる。数多くのメディアでとりあげられている人気店なので、あたりまえのように行列ができている。しかしこの店でいちばん驚いたのは、BGMとして流している音楽がレコードだったことで、いちいちひっくり返したり盤を変えたりしている。

新宿から湘南新宿ラインで横浜まで。湘南新宿ラインの車内は冷房が効きすぎで、極寒。横浜駅から乗り継いで、みなとみらい駅へ。横浜美術館で「ファッションとアート 麗しき東西交流展」を見る。客層の7割くらいは女性。服飾の展示品を前に、ほうぼうで「かわいい」の声が発せられる。

Sunday, November 11

『BRUTUS』の京都特集と『Hanako』の鎌倉特集を買って読んだ。京都特集と鎌倉特集の雑誌が溜まっていく。