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Monday, May 1

明け方、身体のあちこちが痛い。ピクニックで重い荷物を運んだ影響だろうか。しかしピクニックで筋肉痛になるなんて、蒲柳の質も甚だしい。

連休の谷間、カレンダーどおりの勤務体系なのでいつものように出社。昼休みの時間に読みさしだったマイケル・ブース『ありのままのアンデルセン ヨーロッパ独り旅を追う』(寺西のぶ子/訳、晶文社)を読む。『英国一家、日本を食べる』の翻訳が話題になったころ、MONOCLEのラジオでマイケル・ブースを名乗る人物が食レポをやっているのを聴いて、あのマイケル・ブースとこのマイケル・ブースは同一の人物だろうかと調べてみたらおなじ人で、ちがう人かなと思ってしまったのは「英国一家」にもかかわらずラジオではいつもコペンハーゲンから報告していたから。彼のデビュー作である本書『ありのままのアンデルセン』を読むと、妻がデンマーク人でコペンハーゲンに移住することになった旨が説明されている。

デンマークを代表する作家といえば、アンデルセン。アンデルセンの著作を原書で読んでみたマイケル・ブースは、子供向けに翻案された童話のイメージをくつがえす作家の変人ぶりに惹かれ、アンデルセンが旅したヨーロッパ諸国を同じようにまわった。その記録が本書。イギリス人らしい皮肉を交えた筆致は、真に受けてよいのか悩ましい箇所だらけなのだが、デンマークにおける以下の説明は真に受けてよいのだろうか。

デンマーク語には「プリーズ」にあたる言葉がなくて、バス待ちで行列しているときに肘をぶつけても絶対にごめんなさいと言わない。彼らは、礼儀作法のばかげたルール(たとえば、スモークサーモンをライ麦パンに載せて客人に出すのは、缶詰のベークドビーンズをそのまま勧めるようなものだという。スモークサーモンは、絶対に白パンに載せないといけない)にはへいこらと従うくせに、整然と列を作って並ぶ能力には欠けているのだ。祭典の前日、ショーの後でリスン(引用者注:妻のこと)に贈るプレゼントを探すつもりでデパートへ行った僕は、店内へ入って次の人のためにドアを押さえてあげたが、そんなことをしたら最後、みんなが僕を無視して次から次へと平気で入ってくる。悪くすれば、そんな騎士道精神を快く思わないフェミニストに険しい顔でにらみつけられるはめになり、そうなったら、もう二度とドアを押さえようとは思わなくなる。そんなデンマーク人に比べたら、香港の中国人−−僕が出会ったなかで間違いなく一番無礼な人たち−−だって、自己主張訓練を受けている最中の図書館司書のグループみたいなものだ。他人に足を踏まれてもつい謝ってしまうイギリス人としては、すべてが僕に対する当てつけとしか思えなくて、いつもちょっとした買い物で気を紛らわせてから、涙をこらえて帰宅したものだ(こういうふうに、デンマーク人みんながそうだと一般化するのは明らかに間違いだけど、彼らは並外れて結束が固い国民だと誇りを持っているのだから、しかたがない)。(pp.15-16)

「自己主張訓練を受けている最中の図書館司書のグループみたいなもの」という比喩も謎。

Tuesday, May 2

筋肉痛にしては症状が重く、神経痛かもしれない。

きのう郵便受けに届いた『UP』(東京大学出版会)と『みすず』(みすず書房)を読む。『UP』の山口晃の連載が、過去最大級の手抜きっぷりで痺れる。過去にも妻に代筆させたり、かるた絵のようなもので逃げたりしていたが、今回のは圧巻。最初はちゃんと描いておきながら途中から杜撰、というのが手抜きっぷりを際立たせている。

Wednesday, May 3

金沢を旅するにあたりガイドブックを読まずに吉田健一の『金沢・酒宴』(講談社文芸文庫)を読んでいる。

連休初日は美術館&ギャラリーめぐり。まずはタクシーで原美術館へ。運転手に原美術館までお願いしますと言って伝わった試しがなく、本日も例によって通じなくて、住所を口頭で投げかける。五反田駅から原美術館まで410円の初乗り運賃で済むかと思ったが、意外と遠くて650円かかる。原美術館で「エリザベス・ペイトン Still life 静/生」を鑑賞。とても好みの絵画がならぶ。昼食はそのままCafe d’Artで。好天の庭先で、パスタと赤ワイン。山手線で浜松町まで行って、Gallery 916で「上田義彦 森の記憶」を見る。ギャラリーを出てから、天気がよいので久しぶりに浜離宮恩賜庭園を散歩。晴れているので水上バスで浅草まで向かうのよいかと思ったが、考えることはみんなおなじで大行列。今回はパス。山手線で浜松町から恵比寿へ。アトレ恵比寿の靴下屋で買いものをしてから、NADiff a/p/a/r/tに向かう。G/P Galleryで「イナ・ジャン Mrs. Dalloway」と「山田弘幸 Archived/Nosotros」を見る。地下のギャラリーで羽永光利「一〇〇〇」を見てから、夕飯を食べに焼き鳥屋に向かう。恵比寿と代官山の途中にある炭火道場別邸で。夕方5時から食べはじめて1時間後に外に出ると、まだ明るい。帰りにふたたびアトレ恵比寿に立ち寄って、Le Grenier a Painでバタールを買う。

Thursday, May 4

明け方、背中に激痛が走る。ロキソニンテープを貼る。

多和田葉子『百年の散歩』(新潮社)を読みながら、自由が丘へ。ベイクショップで昼食。パンケーキとコーヒー。いくつか雑貨店を見てまわってから帰宅。夜は出前寿司。

Friday, May 5

ロキソニンテープを貼る。

吉田健一『旅の時間』(講談社文芸文庫)を携えて、世田谷線で松陰神社前へ。雑誌などで紹介されている店は、あいにく大型連休中なので休みのところが多かったけれど、松陰神社と旭屋パーラーとnostos booksを訪れる。小田急線と井の頭線を乗り継いで、神泉駅で下車。Bunkamura ザ・ミュージアムで「ニューヨークが生んだ伝説 ソール・ライター展」を鑑賞。nostos booksでも小特集の棚をつくっていたソール・ライター。

ソール・ライター再評価の契機となったシュタイデル社が刊行した『Early Color』を最初にいつどこで見たのか記憶が判然としないのだが5000円という写真集の価格に逡巡しているうちに今度は『Early Black and White』というモノクロ写真を集めたものも出てこれはどちらも揃えないとだめな雰囲気になって価格のハードルはいよいよ上昇して結局買わずじまいのまま今日に至ったところで回顧展が日本でも開催されることになり図録として青幻舎が『ソール・ライターのすべて』を刊行してこれさいわいと写真集より安価な『ソール・ライターのすべて』を買った。

Saturday, May 6

ロキソニンテープを貼って安静にする一日。

読書。山田久『同一労働同一賃金の衝撃』(日本経済新聞出版社)、クリストファー・クラーク『夢遊病者たち 第一次世界大戦はいかにして始まったか』(小原淳/訳、みすず書房)、『ソール・ライターのすべて』(青幻舎)、『なnD』(nu)。

Sunday, May 7

ロキソニンテープのおかげか、きのう安静にしたおかげか、痛みはだいぶ沈静する。

上野へ。国立西洋美術館で開催中の「シャセリオー展 19世紀フランス・ロマン主義の異才」の鑑賞にあたって、普段はまず聴くことのない音声ガイドを山田五郎が喋っているというので使ってみたのだが、音声ガイドを使うとものすごくせわしないことが判明。音声ガイドの内容自体はためになったものの、落ち着いて見れない。解説は音より文字がいい。フランス絵画の復習のために道中読んでいた高階秀爾『フランス絵画史 ルネッサンスから世紀末まで』(講談社学術文庫)をひらくと、シャセリオーの業績を明晰な筆致でまとめていた。「シャセリオー展」をあとにして、常設展示内での企画展「スケーエン:デンマークの芸術家村」もおもしろく見る。しかし国立西洋美術館は身体の芯まで冷えるほどの寒さでつらかった。冷房効きすぎ。

上野駅構内の旧貴賓室をレストランにしたBrasserie L’ecrinで、遅めの昼食としてフランス料理を食べる。