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Monday, March 20

祝日。ここ最近新聞を読むのがおもしろくなって、早朝、コンビニで日経新聞を買う。新聞をちゃんと読むなんて、各紙を読み較べる奇特な作業をやっていた大学生のころ以来だが、ある程度の知識が蓄えられてから新聞というメディアにふれると、それなりに熟読のしがいがある。もっとも、ある程度の知識を蓄えるには、新聞を読んでいるだけではどうしようもなくて、本も読まなければならない。本を読んでこそ、新聞の存在価値がわかる。しかし困ったことに、新聞をちゃんと読んでいると、本を読む時間がなくなる。

Tuesday, March 21

新聞は早朝の起き抜けにすぐ読みたい、でも宅配されるのは嫌だ、しかしコンビニに買いに出かけるのは面倒。このわがままへの解決策は、電子版である。本当は紙がいいので、電子版の選択は妥協の産物でしかないが、お試しとして紙面ビューアのアプリを使ってiPadで読むことに。どうせこんなのは駄目だろうと思ってアプリを使ってみたら、意外にもそれほど悪くはない。iPadの画面を凝視しつづけるので確実に視力は悪化すると思うが。宅配では不可能な、帰宅時の電車内で夕刊が読めるのもよい。

東京メトロ沿線で配布しているフリーペーパー『メトロミニッツ』(スターツ出版)を読む。特集はビールと料理。ここのところメディアがとりあげる食やカルチャーの話題を拾い読みすると、中目黒や代々木上原などと並列のポジションで松蔭神社前が登場する。松蔭神社前の地位向上が甚だしい。

Wednesday, March 22

積読状態の本を横目に、iPadで新聞ばかりを読んでいる。新聞ばかりを読んでいると、新聞を読んで人生が終わってしまう感じがして、焦燥に駆られる。

Thursday, March 23

ロンドンの議会議事堂付近でテロと思われる事件が発生。

新聞を隅々まで読んでいると、些細なことが気になってしかたがない。日本百貨店協会が発表した2月の売上高の数字を分析する記事で、全国版と京滋版を較べると、矛盾とは言わないまでも分析の理路を疑いたくなるようなことが書いてある。まずは全国版。

日本百貨店協会が22日発表した2月の全国百貨店売上高は既存店ベースで前年同月比1.7%減だった。前年割れは12カ月連続。前年がうるう年で営業日が1日減った影響が大きかった。

つづいて京滋版。

日本百貨店協会が22日発表した近畿地方(福井県含む2府5県)の2月の百貨店売上高は前年同月比1.1%増の1055億6千万円だった。前年実績を上回ったのは2カ月連続。バレンタインデーの催事の好調に加え訪日外国人消費も高水準で全体を押し上げた。

これを素直に信じるならば、近畿地方では前年がうるう年だった影響などまるでないかのように、バレンタインデーと外国人観光客の消費が大盛りあがりだったとなるが、ほんとうなのかそれは。

Friday, March 24

きのうの夕刊に、閉店後の銭湯に忍び込んで入浴券を盗んだ道端英樹容疑者(66)が逮捕され、容疑者のことを捜査員が「風呂屋のミッチー」と呼んでいたという記事があったという話をしたら、Yahoo!ニュースにも出ていたという。ネットニュースで十分だった。はたして新聞を読む意味があるのかと疑念が生まれそうな記事にばかり食いついてしまう。

気をとりなおしてエコノミスト誌を読む。

Saturday, March 25

教科書検定のことが話題になっているようだが、教科書の影響力を買いかぶりすぎな議論をいつも不思議に思う。どれほど躍起になって教科書を拘束しようが、教科書の記述だけでその人間の思考が醸成されるはずはない。教科書をめぐる論議は、教科書だけをじっくりと精緻に読むものの教科書以外の情報源にはいっさい触れようとしないという、現実には存在しない架空の人間を想定しているようにしかみえない。もっとも、教科書をめぐる論争は代理戦争のようなものだと理解すべきだろうが。

三島へ。伊豆箱根鉄道駿豆線に乗って三島広小路駅で降り、「うなぎ 桜家」で鰻重とビールの昼ごはん。人気店らしいとの情報は事前に入手しており予約済みで訪れたのだが、驚いたのは、店に着くとすでに人だかりで、外部委託の警備員が無線で予約者を捌いていたこと。警備員が客を捌いている飲食店をはじめて見た。歩いて三島駅まで戻り、無料のシャトルバスでクレマチスの丘へ。本日の主目的である、IZU PHOTO MUSEUMで開催中の「ヨヘン・レンペルト|Fieldwork — せかいをさがしに」を鑑賞する。規模は小ぶりながら、細部まで構成の行き届いた優れた展覧会だった。あの紙にプリントされた写真を、あの空間に展示されていることに意味があるように思えて、図録は購入せず。東海道線に乗って東京に戻る。

Sunday, March 26

冬に舞い戻ったかのような冷たい雨の降る一日。

トランプ大統領が医療保険制度改革法(オバマケア)の代替法案を撤回したことをめぐる解説記事を読む。報道によれば、代替法案が不徹底であると批判する共和党の強硬派が反対にまわった影響が大きいという。トランプが大統領に就任する前後にアメリカ政治の研究者たちが指摘していた、大統領の内政問題に関する権限の弱さが露呈したかたちとなった。アメリカ合衆国という国は、司法もそうだが、議会も大統領の言うことを聞くとはかぎらない。たとえ共和党同士であっても。三権分立のお手本のような牽制が効いているのがアメリカである。効きすぎ、という気もするが。

土井善晴『一汁一菜でよいという提案』(グラフィック社)を読む。料理をするのに気負って無理をする必要などなく、一汁一菜でよいのだと説きながらも、後半になると日本の食文化全体に対してだんだん口うるさくなるという、革新的なのか保守的なのかよくわからない不思議な本だった。あまりに日本的なものに傾斜しすぎているきらいがあり、著者にそんな意図などないことは承知しつつも、日本人であることの美意識を共有させるような、単一民族の束に収斂させる展開になっていて、読んでいて居心地が悪い。あるいは、「家庭」という存在を無条件に礼賛気味なのもまた、居心地が悪い。