273

Monday, June 6

二泊三日の京都旅行を終えて、旅疲れ。京都ではいわゆる観光地も巡ったのだがそれほどの混雑は感じられず、大勢いるはずの観光客の面々は一体どこにいるのだろうと不思議に思って、半ば興味本位で日曜日の午後三時ごろに清水寺に行ってみたら全員ここにいたとでも言いたくなるほど鮨詰め状態だった。修学旅行生と外国人観光客がみんなここに来ちゃったかのような様相を呈する。原宿竹下通りのような混みっぷり。

晩ごはん、白米、玉葱としめじの味噌汁、塩辛、豚肉の柚子ポン酢炒め、卵焼き、馬鈴薯の土佐煮、人参の白だし煮、小松菜のおひたし、玉葱の漬物、麦酒。

Tuesday, June 7

起き抜け間際、腰に激痛が走る。

飯田高誉『戦争と芸術 美の恐怖と幻影』(立東舎)所収の針生一郎と浅田彰と著者による鼎談のなかで、浅田彰がつぎのように述べている。

僕は、天皇制は廃止して、とりあえずドイツ流の共和国にでもしたらいいと思いますよ。天皇制廃止といってもフランス革命のように天皇を処刑するわけじゃなくて、平和的に体制を変えるだけのことです。第一次世界大戦に敗けたドイツで皇帝が退位し帝政が廃止されたように、それはごく当たり前のことでしょう。現に、むしろ、いわゆる右翼の側に、「国体護持」(天皇制存続)のためにも、とりあえず昭和天皇に戦争責任を負って退位してもらおうという意見がけっこうあった。むろん、左翼の側でも天皇制廃止はごく当たり前の主張だったわけです。そういうことを普通に議論できるというのが、民主主義の最低限の条件でしょう。ところが、特に昭和天皇が病気になって死んだあたりから、逆に天皇制を論ずることがタブー視されているようになってきたような気がする。そこには非常に不健康なものを感じます。(p.114)

現在ではラディカルなものに映ってしまうこのような意見を読んで思い出したのは、ちょうど平行して読んでいた五十嵐太郎『日本建築入門 近代と伝統』(ちくま新書)での「毎年大量に生産される建築学生の卒業設計をみても、渋谷や新宿への提案は定番だが、皇居に関するプロジェクトは皆無である。いや、禁忌という意識すらないかもしれない。学生にとっては、そもそも存在しない場所という可能性もあるだろう」(p.230)というくだり。タブー視それ自体が失われている、つまりは眼中にない。「不健康」を論じる土壌自体が消えてゆくかもしれない。『日本建築入門』では敗戦後に皇居をめぐる活発な議論が展開されていたことの紹介があり、たとえば丹下健三のつぎのような発言を引いている。

1957年に丹下健三は、「僕はあれを文化センターにしたいんだ。公園あり、美術館あり、図書館ありで、今の自然の武蔵野情緒も生かしながら、国民のものにね」と発言している(『丹下健三』新建築社、2002年)。そして皇居を含む山手線エリアをまるごと改造し、排気ガスが多くて環境が悪いから、皇居は引越してもらうアイデアを披露した。現在、有名な建築家が皇居開放の発言をすることは考えにくいだろう。(p.230)

Wednesday, June 8

午前2時に身体の痛みで目が醒める。腰に激痛が走り、腹部は強い圧迫感。翌朝ふたたび病院へ。メロキシカム錠10mg、イルソグラジンマレイン酸塩錠2mg、ケトプロフェンテープ40mg。

夕食は、ひやむぎ、サニーレタスとトマトと胡瓜のサラダ、わさび漬けと梅肉のかまぼこ。樫原辰郎『『痴人の愛』を歩く』(白水社)を読む。

Thursday, June 9

あまた存在する京都本のほとんどは未読で、いま話題の井上章一『京都ぎらい』(朝日新書)すら読んでいない人間に京都本を語る資格があるとは思えないが、しかし京都について書かれた本のなかでベストを挙げるなら迷いなく鷲田清一『京都の平熱 哲学者の都市案内』(講談社)を選ぶ。京都旅行帰りの余韻のなかで再読。

その土地の者が地元の名所旧跡を訪れたことのないのはよくある話だが、『京都の平熱』の冒頭には、

十年通った大学から十五分もあれば歩いてゆけた銀閣寺、これはいまだ足を踏み入れたことがない。庭がいいとさんざ聞かされた東福寺も入ったことはないし、広隆寺の弥勒菩薩も美術の教科書でしか見たことがない。南禅寺と高台寺は数年前、遠来の客人とともにはじめて訪れた。金閣寺と龍安寺は三十歳を過ぎてから。(p.1)

とある。これを読んで東福寺は訪れたほうがよいのではと助言したくなったのは、東福寺本坊庭園を作庭した重森三玲はじぶんの長男に「完途(カント)」、二男に「弘淹(コーエン)」、長女に「由郷(ユーゴー)」、三男に「埶氐(ゲーテ)」、四男に「貝崙(バイロン)」という名前をつけており、メルロ=ポンティにちなんで息子の名前を「めるろ」にした鷲田清一と通じるものがあると思うからだ。

牛肉とズッキーニのステーキ、しらすとサニーレタスのサラダ、オニオンスープ、赤ワイン、という夕餉。

Friday, June 10

夜、砂肝とマッシュルームのアヒージョ、しらすとサニーレタスのサラダ、トマトとしめじのコンソメスープ、バゲット、ツナ、赤ワイン。iPadでエコノミスト誌を読む。

Saturday, June 11

病み上がりの土曜日は自宅で。朝食は、トマトとピーマンのピザトースト、珈琲。昼食は、蛸としめじとほうれん草のバター風味パスタ、サンペレグリノ。夕食は、太巻き寿司、蛸とサーモンとアボカドのサラダ、しめじと長葱のお吸い物、麦酒。

Sunday, June 12

新宿駅のNEWoManにあるDEAN & DELUCAでアイスカフェラテを飲む。休憩。「ニュウマン」と「バスタ新宿」は声に出して読みたい日本語である。

新宿から恵比寿駅経由で日比谷線に乗り換えて、中目黒散策へ。sun2dinerでハンバーガーと麦酒の昼食の後、COW BOOKSで吉田健一の文庫本を買ってから、カセットテープとレコードの店waltzを訪れる。

中目黒から六本木へ。東京ミッドタウンのFUJIFILM SQUAREで奈良原一高「消滅した時間」展を見てから、国立新美術館で開催中の「MIYAKE ISSEY展 三宅一生の仕事」に向かうもすごい行列を前にやる気がなくなり諦めて帰宅。国立新美術館に行くまでにやけに人が多いなと感じて、ルノワール展で混んでいるのかと思ったら三宅一生のほうが混んでいた。

帰宅して、白米、茗荷と小松菜のお吸い物、麻婆豆腐、胡瓜と山葵、ごぼうの漬物、麦酒、の夕食。本棚から京都特集のクウネルバックナンバーをひっぱり出す。