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Monday, November 9

昨晩、風邪の予感があったので卵酒を飲んでから就寝したものの、いわゆる民間療法の類はまるで効果のない身体なので、早朝目が覚めると予想どおり喉の痛みがひどくなっている。葛根湯も飲んだが、まるで効果なし。これまでの経験上、わずか数日で自然に治るなどという僥倖が訪れたことは一度たりともないため、病状を回復させるには近代医学/薬学に縋る以外の術はない。午前中病院に行く。処方された薬は、クラリスロマイシン錠200mg、PL配合顆粒、トランサミン錠500mg、イソジンガーグル液7%。病院の待合室で、吉田健一『英国の文学の横道』(講談社文芸文庫)所収の著者年譜を熟読する。夕飯はおかゆ、お茶。

Tuesday, November 10

白い粉を吸引したら睡魔がひどくて日常生活に支障をきたす。白い粉とは違法ドラッグではなくPL配合顆粒のことだが、この薬の副作用が強烈で、一日中眠くてだるくて大変だった。身体に合わない。困るのは「だるくて」の部分が副作用のせいなのか風邪のせいなのかが判別できないところで、昨日の近代主義礼賛から手のひらを返すようだが、ここに近代医学/薬学の限界を見る思いである。そもそも風邪を治す薬は事実上存在しないという事実からして、近代主義の敗北である。

夜、ベーコンともやしと人参の焼きそば、お茶。

東京メトロの駅構内に置いてある産経新聞社が出しているフリーペーパー『メトロポリターナ』を読んでいたら(なんで産経がやっているのだろうといつも思うのだが)、特集が清澄白河で「本とコーヒー、花をデートに」とある。古本屋やコーヒー店は知っていたが、清澄白河に個性的な花屋がいくつか散在しているというのは初めて知った。

Wednesday, November 11

大崎駅ちかくにあるO美術館で「日本初の女性報道写真家 笹本恒子100歳展」を見る。さすがは100歳を超えるだけあって、写真家よりも少し年長の著名人のポートレートを数多く撮影しているのだが、彼/彼女らの大半が物故者。

夜、鶏肉のケッパーレモン煮、レタスときゅうりとミニトマトのサラダ、バゲットとパテ、水。

Thursday, November 12

ここのところ古典回帰中なのでプラトンやらシェイクスピアやらを読みだしているのだが、白水Uブックスの小田島雄志訳で『ヴェニスの商人』を読んだら、とてもおもしろいねこの戯曲! といまさらな感想を抱く。

夜、味噌ラーメン、水。

Friday, November 13

夜、近所のカフェで夕食。風邪は治りかけ。喉に軽い違和感があり、鼻水はまだでる。治りかけという表現が適切なのか怪しいが。iPadでエコノミスト誌を読む。

Saturday, November 14

パリでテロリズムが発生との報せを受けて、twitterを確認するとBBCのアカウントが非常事態を思わせる投稿を連投していた。凄惨な事件の内容がリアルタイムで洪水のようにiPhoneの画面に流れ込んでくる。そうした夥しい情報のなかで、ニューヨークタイムズ紙がtwitterで “Paris attack is the second deadliest on a Western city since 9/11” と書いているのを読んで、2004年にスペインのマドリード市内で起きた列車爆破テロのことを忘れているのではないかという報道機関としての見識を問われそうな疑念はさておくとしても、アメリカ同時多発テロ以後も中東諸国ではテロリズムにより膨大な数の死者が積みあげられているわけで、欧米とそれ以外の地域を明確に区分けするその見事なまでの思考の論理には、嫌味ではなく、ある意味感心させられるものがある。これを欧米諸国の傲慢さと言って片付けてしまえば簡単で、確かにそういう面もあろうが、地政学的な観点を無視して欧米と中東を並べたところでさして意味をなさないし、その傲慢さをきれいに分析してみせたところで事態は解決しない。しかし、では何をすればよいかと言われても妙案はない。各国の首脳がテロに屈しないと声高に叫んだところで、安心する人など誰もいないだろう。仮にISの跋扈するシリアやイラクを攻撃しても解決にならないだろうことは、アメリカによるアフガニスタンやイラクへの攻撃が実例として示すとおりである。テロ対策の強化なども実際上不可能なことを要求している。具体的な解決策や打開策を見出すことのできないまま、恐怖はこれからも続いてゆく。

あいにくの雨模様のなか有楽町駅で降りて、銀座へ。SUZU CAFEで昼食ののち、「鉄道遺構・再発見」(LIXILギャラリー)、「小沢剛展 帰って来たペインターF」(資生堂ギャラリー)、「ローラン・グラッソ展 Soleil Noir」(銀座メゾンエルメス)を遊覧。NADiff du Champで『街道マガジン』vol.2を購入。有楽町線から新宿線に乗り継いで、初台に向かう。東京オペラシティアートギャラリーで「LABYRINTH OF UNDERCOVER」を鑑賞。いつもと客層がちょっと違って美術系というよりファッション系の人が多い印象。一時間くらいあれば見終わるだろうと予定を立てていたのだが、過去のコレクション映像を延々流している部屋が4つもあって、こうした類の映像に関心がなければスルーするだけであろうが、コレクション映像が大好きな人間にとっては途中で席を立つタイミングが難しくて、もの凄くタイトな鑑賞スケジュールになってしまった。帰りにgallery 5で葛西薫デザインのカレンダーを買う。

夜、fuzkueへ。パリに関する本を読みたい、それも郷愁を誘う古きよきパリなどではなく、今現在起こっている事態に接続できそうな本を読みたいと思って、自宅の本棚から港千尋『パリを歩く』(NTT出版)をもってきた。気楽に街歩きができなくなっているだろうパリの現在を忖度しながら『パリを歩く』を再読する。fuzkueでは、シメイブルー、ミックスナッツ、定食、ギネスビール、鶏ハムを注文。会計時にフヅクエブックスの一冊、ジョン・ウィリアムズ『ストーナー』(東江一紀/訳、作品社)を買う。

Sunday, November 15

パリのざわつきで落ち着かず、インターネットでニュースばかりを追っている。夜、焼肉、白米、長ねぎとわかめの中華風スープ、白菜サラダ、キムチ、ビール。高い国産牛肉と安いアメリカ産牛肉を交互に焼いて食べる。日米摩擦。